文理両道

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書評:トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」

2016-04-09 08:55:33 | 書評:学術教養(科学・工学)
トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」 (中公新書)
クリエーター情報なし
中央公論新社

・山本紀夫

 
 世界中で、料理の香辛料などとして愛用されているトウガラシ。トウガラシは、もともとどこの原産だったのか。どのようにして、世界中で利用されることになったのか。

 トウガラシを漢字で書けば<「唐」辛子>だが、中国原産というわけではない。j本書によれば、四川省、雲南省、貴州省など中国の西南地方では盛んに使われているものの、その他の地域ではさほど盛んではないという。中国の料理書にトウガラシが登場するのは、19世紀になってからのようだ。

 トウガラシと聞いてぱっと思いつくのは、キムチの韓国、カレーのインドだろうか。しかしそのどちらもトウガラシの原産国ではないという。キムチにトウガラシが使われるようになったのは250年前である。高麗時代のキムチの香辛料は、ニンニクやショウガが中心だったそうだ。またインドでトウガラシが料理に使われるようになったのも大航海時代、すなわち16世紀以降なのである。トウガラシを使わないキムチやカレーがどんな味だったか、ちょっと興味をひかれる。

 それでは、トウガラシはいったいどこの原産なのか。実は中南米だ。コロンブスが15世紀末に西インド諸島からトウガラシを持ち帰って以来、全世界に広まったのである。だからトウガラシの品種は中南米に多く、メキシコだけでも600種類もあるという。

 このトウガラシの栽培種は4種あるが、世界中で栽培されているのはそのうちのアンヌーム種のみらしい。残りの3種、すなわちチャイネンセ種、バッカートゥム種、プベッセン種はアメリカ大陸以外ではあまり知られていないトウガラシである。

 トウガラシの特徴として、栽培種だけでなく野生種も利用されていることがあげられる。野生種は脱落性があり、実も小さいので使いづらい。通常は栽培種があれば野生種は栽培されないものだ。唐辛子の野生種は栽培種にない香り、風味、強烈な辛味を持っている。それを求めて野生種を栽培するというのも、トウガラシが香辛料だからなのだろう。

 このトウガラシ、何故か、ヨーロッパでは、あまり使われていないという。それでも例外的にイタリア南部のカラブリア地方とハンガリーではよく使われるそうだ。特にハンガリーは、パプリカが作り出された国だ。ハンガリーの料理にはパプリカが欠かせないのである。

 一方アジアやアフリカでは、トウガラシが盛んに使われている。本書は、トウガラシがこれらの国にどのように広まっていったのかを考察し、どのように使われているのかを紹介している。日本に伝わったのは16世紀中頃と早かったが、利用が盛んになるのは江戸時代になってからのようだ。ただし、長らく七味の中の一味としてしか使われなかった。

 我々が何の気なしに辛みとして使っているトウガラシだが、突き詰めていくと、とても奥深いものだということが分かる。本書は、そういったトウガラシの奥深さを教えてくれるだろう。また、植物としてのトウガラシに興味がある人のみならず、トウガラシを使った料理に興味が有るかたにもお勧めだ。

☆☆☆☆☆

※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。

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