文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:水鏡推理Ⅱ インパクトファクター

2016-04-23 08:41:57 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
水鏡推理2 インパクトファクター (講談社文庫)
クリエーター情報なし
講談社

・松岡圭祐

 文科省の不正研究調査チームに所属する一般職の公務員・水鏡瑞希が、総合職の官僚たちを巻き込み不正を明らかにしているというシリーズの第二弾。今回の話は、あのSTAP細胞騒動をモチーフにしたものだ。

 この作品で扱われているのは、自然治癒するという人工血管。生命科学人工臓器研究所で開発され、その論文が学術雑誌「ナノテクノロジー」に掲載された。研究班リーダーは、瑞希の幼馴染の如月智美。ところが誰も追試に成功しないうちに、論文捏造疑惑が持ち上がり、その責任がすべて智美に押し付けられてしまう。

 他の松岡作品と同様、ヒロインはどこまでもひたむきだ。幼馴染を救おうと一生懸命な瑞希の姿は読者の胸を打つだろう。

 副題の「インパクトファクター」とは、学術雑誌における平均論文引用数のことである。このインパクトファクターの大きい雑誌の掲載されることは、論文の権威を高め、研究者の評価にも繋がるということらしい(ただし、このようなインパクトファクターに使い方には批判もある)。

 今回も、「人の死なないミステリー」というところはしっかり押さえていて(大ケガを負った者はいたが)、瑞希がどのように論文のトリックを暴いていくかという過程はなかなか面白かったが、使われていたトリックが、宴会芸で使われる手品のようで、少しチープに感じられたのは残念。

 ただ著者は、学問の世界には、あまり詳しくなかったようで、最初のほうで少し変な部分がある。いくつか挙げてみよう。まずは瑞希と智美の会話。

 「智美、ああいう研究論文って、ふつう博士が発表するものでしょ。大学院生にできることなの?」

 「発表論文は副所長の滝本さん名義になってるの。わたしの発明と明記されてるけどね。・・(以下略)」
(以上p38)

 そして、同じ画像が使いまわされていると指摘された際の、研究所副所長滝本のセリフ。

 「(前略)・・・。FOV人工血管いまのところ、学会発表されたわけではなく、査読審査付き論文というわけでもありません。雑誌に載ったというだけです」(p110)

 まず、学術論文の発表は大学院生でも行うし、院生のうちに行うくらいでないと、研究の道では生き残れないだろう。また、学会発表は単なるお祭りという場合が多く、重要なのは査読付き雑誌に論文をいくつ発表したかということである。また、ここでは、雑誌は査読付きではないと言っているが、本書の後のほうでは査読があったような記述になっていた。この部分は、著者が学問の世界について十分な知識を仕入れる前に書かれたものなのだろうか。全体としては面白い作品なので、この部分は機会があれば直して欲しいところだ。

○関連過去記事
水鏡推理

☆☆☆☆

※本記事は書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。



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