![]() | クララ殺し (創元クライム・クラブ) |
クリエーター情報なし | |
東京創元社 |
・小林泰三
実家近くの図書館に置いてあった本書。同じ作者による「アリス殺し」の続編に当たる作品だ。この作品の舞台はホフマン宇宙という並行世界。不思議の国の住民だった蜥蜴のビルは、世界の障壁を越えてこの世界にやってきている。
この世界の住民には、地球に対応するアーヴァタールと呼ばれる対応する人間が存在することがある。夢を通して記憶を共有し、ホフマン宇宙の住人が死ねば、対応する地球の人間も死んでしまう。逆に地球の人間が死んだ場合は、その死はリセットされ、なかったことになってしまう。
ビルはホフマン宇宙でクララという少女と上級裁判所の判事だというドロッセルマイヤーという男と出会う。一方ビルのアーヴァタールである大学院生の井森健は、彼の通う大学で露店くららという美少女とその義理の叔父だという大学教授のドロッセルマイヤーと出会った。ところがクララとくららに脅迫状が届いて、くららが死んでしまう。そして、ホフマン宇宙のクララも行方不明に。
いったいくららを殺した犯人は誰かということを追及していくというのがこの作品の本筋なのだが、この作品は基本的には並行世界を扱ったSFだろう。だから、最後に明かされるトリックは、普通のミステリーとはかなり異なり、いかにもSFチックである。いうなればSFミステリーとでもいうところか。かなり込み入った種明かしとなるが、SFチックであるというところを了解していれば、普通のミステリーとしても楽しめるだろう。
最後を締めくくる「合言葉」の場面、何のことかよく分からなかったのだが、調べてみると「アリス殺し」の方に出てくるようだ。機会があればこちらも読んでみたい。
この作品のモチーフとなっているのは19世紀初頭のドイツの小説家であるエルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマンのいくつかの小説だという。私は読んだことはないが、興味のある方はこれらも読んでみるのもいいかもしれない。
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※初出は「風竜胆の書評」です。