タイトルのサガレンとは樺太、今で言うサハリンの古い言い方だそうだ。宮沢賢治なども、彼の作品の中でこの呼び方を使っている。
かってはこの島の南半分は日本の領土だった。今も国際法上は、南半分の所属は決まっていないが、ソ連とこれに続くロシアが全島を実効支配している。サハリンの北緯50度線には、かって日本とソ連の国境があった。南樺太が日本領土だった時代には、この国境が、観光資源になっていたのだから面白い。
鉄道が大好きな人を「テツ」という。これには「乗りテツ」、「撮りテツ」などの種類があるが、特に、女子のテツを「鉄子」という。梯さんも鉄子だったようで、本書中に次のように書いている。
「既にお分かりと思うが、私は鉄道ファンである。列車に乗って旅することをこよなく愛しているが、一方で”歩く鉄道旅”も趣味としている。ほかならぬ宮脇氏によって広まった廃線探索である。」(pp24-25)
この本の取材のため、著者は2回サハリンに行っている(実際にはその後もう一度行っているらしい。)。初回は寝台急行に乗って島を縦断し、北部のノグリキまで行く。二回目は1923年(大正12)にサハリンを旅した宮沢賢治の足跡をたどるというものだ。
樺太南部が日本領だったために起こった悲劇もある。岡田嘉子の事件である。35歳の嘉子は杉本良吉という5歳年下の演出家といっしょに、当時のソ連に亡命を図った。共産圏が地上の天国だというデマがあのころからあったのだろう。しかし案の定、スパイ容疑で杉本は銃殺、嘉子も自由はく奪10年の刑を受けることになった。
ところで、著者名に何か覚えがあると思ったら、以前レビューした「原民喜 死と愛と孤独の肖像」の作者だった。知らずに読んだのだが、こういったことがあるから面白い。寒いところが苦手な私であるが、本書を読んで、いたく旅情を刺激された。寒くない時期なら、機会があればサハリンに行きたいなと思った次第である。
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