「半七捕物帳」といえば、岡本綺堂の代表作で、捕物を扱った者としては、野村胡堂の「銭形平次捕物控」と双璧をなす作品だろう。何度もTVドラマ化された。この「化け銀杏」もそんな「半七捕物帳」に収められた話のひとつだ。
この話も、明治の世になって、「わたし」が半七老人の目明し時代の思い出話を聞くという体裁になっている。この「わたし」というのは、どうも新聞記者らしい。
「わたし」が半七老人のところを訪ねた際に、ちょうど客を送り出すところだった。客は横浜から来た水原忠三郎父子で、この「化け銀杏」は、その忠三郎に関する話だ。
彼が、日本橋の河内屋十兵衛の店で番頭をしているころ、本郷森川宿の旗本稲川伯耆の用人から、狩野探幽斎の鬼の絵を500両で売りたいと言って来た。忠三郎は350両までなら買い上げてもいいと、胴巻きに金を入れて稲川の屋敷に行った。
結局借金250両の質(かた)として5年間預かるということになった。ところが、その帰り、森川宿で名高い松円寺の化け銀杏のところで、何者かに投げ飛ばされ、残りの100両の金も、絵も自分の羽織さえも無くなっていたのだ。
この事件を解決するのが我らが半七親分という訳である。実は、盗みを働いたものと忠三郎を投げ飛ばしたやつは別人でお互いにまったく関係がない人物だった。盗みを働いたやつは市中引き回しのうえ獄門になったそうだが、投げ飛ばしたやつは何も書かれてはいない。私としては、こいつも同罪だと思うのだが。
この話に、化け銀杏の下に女の幽霊が出る話や、鬼の絵に関するちょっとしたどんでん返しなどの味付けがされている。長さ的にも短いので、ちょっとした空き時間に読むには最適だろう。
☆☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。