![]() | 水鏡推理 (講談社文庫) |
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講談社 |
・松岡圭祐
本作は、「探偵の探偵」に続く松岡圭祐の新シリーズの第1弾だ。主人公は、水鏡瑞希という文科省の一般職。
彼女が最初に登場するのは東北大震災の仮説村だ。住民から持ちかけられるトリビア的相談を、まるでおばあちゃんの知恵袋よろしく、次から次に解決していく。その姿は、同じ作者による「特等添乗員α」シリーズの主人公浅倉絢奈を彷彿させる。
この彼女学生時代はかなりアホな子だったらしい。アジェンダを車の名前と思っていたり、ノーリタンを表すNRをホンダのバイクかと言ってみたり。そう、この設定は、「万能鑑定士Q」の凜田莉子の高校時代とよく似ているではないか。
公務員志望だった彼女だが、公務員試験には「推理」というものが出てくる。彼女は推理と言えば探偵だと、アルバイトで探偵社で働くことになる。このあたりは「探偵の探偵」の紗崎玲奈を連想させるのだが、この考え方からしてアホな子だったということがよく分かるだろう。しかし、不思議なもので、この探偵社で学んだことが、瑞希の才能を開花させたようだ。
つまりこの作品のヒロインは、これまで松岡作品のヒロインの特徴を併せ持った集大成のような人物なのである。
彼女が行くことになったのは、「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」。その名のとおり、不正な研究がないかを検証する部署である。彼女は、官僚たちがころりと騙された研究の不正を次から次に暴いていくところは痛快だ。
しかし、出てくる不正というのが、どれもチープなトリックを使った、お座敷芸の手品のようだというのは少し残念。もっと専門家を唸らせるような科学的トリックを仕込んで欲しかったと、科学の専門家ではない作者に要求するのは贅沢だろうか。
最初は、横柄だったタスクフォースの官僚たちも、瑞樹のひたむきさに巻き込まれるように、ともに不正に立ち向かっていく。このあたりは、まるで青春学園ドラマを見ているようでもある。
松岡作品に出てくる主人公は、誰もひたむきである。この作品も、本当の魅力は、ヒロインのひたむきさにあるのだろう。そのひたむきさが、読者の胸をうつ。
☆☆☆☆
※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。