枕草子 第百四段 見苦しきもの
見苦しきもの。
衣の背縫ひ、肩に寄せて着たる。
また、のけくびしたる。
例ならぬ人の前に、子負ひて出で来たる者。
法師・陰陽師の、紙冠して祓(ハラヘ)したる。
(以下割愛)
見苦しいもの。
着物の背筋の縫い目を、どちらかの肩の方に寄せて着ているの。
また、だらしなく首筋を出し過ぎているのも見苦しい。
ふだんは訪れない客の前に、子供をおぶったまま出てきた者。
法師で陰陽師を兼ねている者が、紙の冠をして(神が僧形を忌むのでつけるらしい)祓の祈祷をしているの。
色が黒く不細工な女で、かつらをしている者と、髭がもじゃもじゃで痩せっぽちの男が、夏に、昼間から添い寝しているのときたら、全く見苦しい。何の取り柄があって、昼間から同衾しているのでしょう。
夜であれば、顔かたちも見えず、また、誰でも皆、そうすることにきまっているから、「自分は不細工だ」というので、ずっと起きているわけにもいかないでしょうに。
夜は寝床に入り、翌朝は早く起きてしまうのが、ごく無難というものです。
夏、昼間に寝床に入り起きてくるのは、高貴な方であれば、まあまあ風情があるというものです。けれども、いいかげんな容貌の者は、顔がてらてら光って、寝たためにはれぼったくなっていて、下手をすると、顔面がゆがんでしまっているかもしれない。そんな男女が、互いに顔を見合わせた時の、生きがいのなさったら・・・、ねぇ。
痩せて色の黒い女が、生絹(スズシ・練っていない生糸で織った薄い絹布)の単衣を着ているのは、とても見苦しいものですよ。
「見苦しいもの」という感覚は、現在とほとんど変わらないようです。
その例として幾つかが挙げられていますが、「不細工な男女の昼間の同衾」を少納言さまは厳しい口調で責めています。
天皇と中宮が、昼間に、それも殿上人、上達部、女房などが近くに伺候していても、二人して堂々と寝室に入って行くシーンが、再三紹介されています。
本段にも書かれていますが、「高貴な方の昼間の同衾は、まあまあ風情がある」が、「不細工な男女の場合はもっての外」というのが、少納言さまの美意識なのでしょうかねぇ。
見苦しきもの。
衣の背縫ひ、肩に寄せて着たる。
また、のけくびしたる。
例ならぬ人の前に、子負ひて出で来たる者。
法師・陰陽師の、紙冠して祓(ハラヘ)したる。
(以下割愛)
見苦しいもの。
着物の背筋の縫い目を、どちらかの肩の方に寄せて着ているの。
また、だらしなく首筋を出し過ぎているのも見苦しい。
ふだんは訪れない客の前に、子供をおぶったまま出てきた者。
法師で陰陽師を兼ねている者が、紙の冠をして(神が僧形を忌むのでつけるらしい)祓の祈祷をしているの。
色が黒く不細工な女で、かつらをしている者と、髭がもじゃもじゃで痩せっぽちの男が、夏に、昼間から添い寝しているのときたら、全く見苦しい。何の取り柄があって、昼間から同衾しているのでしょう。
夜であれば、顔かたちも見えず、また、誰でも皆、そうすることにきまっているから、「自分は不細工だ」というので、ずっと起きているわけにもいかないでしょうに。
夜は寝床に入り、翌朝は早く起きてしまうのが、ごく無難というものです。
夏、昼間に寝床に入り起きてくるのは、高貴な方であれば、まあまあ風情があるというものです。けれども、いいかげんな容貌の者は、顔がてらてら光って、寝たためにはれぼったくなっていて、下手をすると、顔面がゆがんでしまっているかもしれない。そんな男女が、互いに顔を見合わせた時の、生きがいのなさったら・・・、ねぇ。
痩せて色の黒い女が、生絹(スズシ・練っていない生糸で織った薄い絹布)の単衣を着ているのは、とても見苦しいものですよ。
「見苦しいもの」という感覚は、現在とほとんど変わらないようです。
その例として幾つかが挙げられていますが、「不細工な男女の昼間の同衾」を少納言さまは厳しい口調で責めています。
天皇と中宮が、昼間に、それも殿上人、上達部、女房などが近くに伺候していても、二人して堂々と寝室に入って行くシーンが、再三紹介されています。
本段にも書かれていますが、「高貴な方の昼間の同衾は、まあまあ風情がある」が、「不細工な男女の場合はもっての外」というのが、少納言さまの美意識なのでしょうかねぇ。