雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

王朝文化の揺らめき

2014-11-20 11:00:58 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子   ちょっと一息

王朝文化の揺らめき

少納言さまが活躍された時期は、大ざっぱにいえば西暦千年の頃に当たります。
平安王朝が円熟期にさしかかり、藤原氏の絶頂期でもありました。絢爛豪華な文化は、多くの女流文学者に活躍の舞台を提供しました。
わが、清少納言も、この華やかな舞台で活躍した女房の一人でありました。

少納言さまは、藤原氏繁栄のシンボルとさえいえる中宮定子に仕えました。
定子の父道隆は関白職にあり、定子の妹は東宮に輿入れするという繁栄ぶりで、その絶頂期の様子は、枕草子のあちらこちらに描かれています。
しかし、その絶頂期は必ずしも長くは続かず、やがて道隆の弟である道長が実権を握り、藤原王朝の絶頂期に至ります。
少納言さまを取り巻く世界も、道隆の死去とともに大きく変わっていきます。宮中の栄華の中心は、定子から道長の息女である中宮彰子へと移っていきます。彰子の近くには、和泉式部や紫式部といった才女が集められ、女流文学の勢力も少納言さまは劣勢に立たされて行ったのではないでしょうか。
華やかな王朝文学界にも、無情の揺らめきがあったのです。

少納言さまは、華やかな宮廷の、しかもその中心にある定子の近くで絢爛たる繁栄を見つめ、やがてはその勢力を失っていくという悲哀をも実感しているのです。
しかし、枕草子に描かれている世界を見る限り、その悲哀に打ちひしがされたり、不運を嘆くシーンなどほとんど見ることが出来ません。
これを、枕草子の不思議の一つとされる人もいますが、これこそが、最も少納言さまらしいところだと私は思うのです。

枕草子を読み進むにあたって、少納言さまの『歯を食いしばった必死な表現』もあるということに、想いを馳せたいと思っています。
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