枕草子 第九十二段 あさましきもの
あさましきもの。
刺櫛すりてみがくほどに、ものにつきさへて折りたる心ち。
車のうち覆りたる。「さるおほのかなるものは、ところ狭くやあらむ」と思ひしに、ただ夢の心ちして、あさましうあへなし。
人のために、恥づかしう悪しきことを、つつみもなくいひゐたる。
「かならず来なむ」と思ふ人を、夜一夜起き明かし待ちて、暁がたに、いささかうち忘れて寝入りにけるに、烏の、いと近く、「かか」と鳴くに、うち見開けたれば、昼になりにける、いみじうあさまし。
見すまじき人に、ほかへ持ていく文見せたる。
無下に知らず見ぬことを、人のさし向かひて、あらがはすべくもあらずいひたる。
物うちこぼしたる心ち、いとあさまし。
あまりのことにあきれてしまうもの。
挿し櫛をすって磨くうちに、物に突き当たって折ってしまったときの気持。
牛車のひっくり返ったの。「そんなに度外れて大きな物は、どっしりとしているだろう」と思っていたのに、ただ夢のような気持ちがして、あきれはてて拍子抜けがしてしまいます。
当人にとって恥ずかしく具合の悪いことを、無遠慮に言っているの。
「必ず来てくれる」と思う男性を、一晩中起きて待ち明かして、暁の頃に、つい気がゆるんで寝入ってしまったところ、烏がすぐ近くで、「かあ」と鳴くので、目を開けてみると、お昼になってしまっているのですよ、、あきれてしまって物もいえません。
見せてはならない人に、よそに持っていく手紙を使者が見せてしまったのですよ。
全然身に覚えのないことを、膝詰めで、弁解するひまも与えずまくしたてるのには、あきれてしまいます。
何かをひっくり返してこぼしてしまったときの気持ち、もういやになってしまいます。
「あさましきもの」とは、取り返しのつかない失敗や、予想外の出来事に、あきれてしまったといった感覚です。現在の「あさましい」とは違うニュアンスです。
個人的には、「牛車のうち覆りたる」という部分が大好きです。
その光景を目の当たりにした時の少納言さまの表情を想像しますと、何だか可笑しくなってきます。
あさましきもの。
刺櫛すりてみがくほどに、ものにつきさへて折りたる心ち。
車のうち覆りたる。「さるおほのかなるものは、ところ狭くやあらむ」と思ひしに、ただ夢の心ちして、あさましうあへなし。
人のために、恥づかしう悪しきことを、つつみもなくいひゐたる。
「かならず来なむ」と思ふ人を、夜一夜起き明かし待ちて、暁がたに、いささかうち忘れて寝入りにけるに、烏の、いと近く、「かか」と鳴くに、うち見開けたれば、昼になりにける、いみじうあさまし。
見すまじき人に、ほかへ持ていく文見せたる。
無下に知らず見ぬことを、人のさし向かひて、あらがはすべくもあらずいひたる。
物うちこぼしたる心ち、いとあさまし。
あまりのことにあきれてしまうもの。
挿し櫛をすって磨くうちに、物に突き当たって折ってしまったときの気持。
牛車のひっくり返ったの。「そんなに度外れて大きな物は、どっしりとしているだろう」と思っていたのに、ただ夢のような気持ちがして、あきれはてて拍子抜けがしてしまいます。
当人にとって恥ずかしく具合の悪いことを、無遠慮に言っているの。
「必ず来てくれる」と思う男性を、一晩中起きて待ち明かして、暁の頃に、つい気がゆるんで寝入ってしまったところ、烏がすぐ近くで、「かあ」と鳴くので、目を開けてみると、お昼になってしまっているのですよ、、あきれてしまって物もいえません。
見せてはならない人に、よそに持っていく手紙を使者が見せてしまったのですよ。
全然身に覚えのないことを、膝詰めで、弁解するひまも与えずまくしたてるのには、あきれてしまいます。
何かをひっくり返してこぼしてしまったときの気持ち、もういやになってしまいます。
「あさましきもの」とは、取り返しのつかない失敗や、予想外の出来事に、あきれてしまったといった感覚です。現在の「あさましい」とは違うニュアンスです。
個人的には、「牛車のうち覆りたる」という部分が大好きです。
その光景を目の当たりにした時の少納言さまの表情を想像しますと、何だか可笑しくなってきます。