雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

流罪途上で ・ 今昔物語 ( 24 - 45 )

2017-02-10 12:51:17 | 今昔物語拾い読み ・ その6
          流罪途上で ・ 今昔物語 ( 24 - 45 )

今は昔、
小野篁(オノノタカムラ)という人がいた。
ある事件により、隠岐国に流された時、船に乗って出発しようとして、京の知人のもとにこのように詠んで送った。
 『 わたのはら やそしまかけて こぎ出(イデ)ぬと ひとにはつげよ あまのつりぶね 』 と。
 ( 小野篁は、大海原の多くの島々をぬって、漕ぎ出していったと京の人々に告げてくれ、釣り船の猟師よ。)

明石という所に行き、その夜は泊った。九月の頃のことなので、夜明けまで寝付かれず、海を眺めていたが、沖を行く船が島に隠れていくのを見て、しみじみと我が身が思いやられ、このように詠んだ。
 『 ほのぼのと あかしの浦の あさぎりに 島かくれ行(ユク) 舟をしぞおもふ 』
 ( ほのぼのと夜が明けようとしている明石の浦の朝霧の中に、島に隠れていく舟を見ていると、しみじみと先のことが思われる。)
と詠み上げて、涙を流した。

これは、篁が京に帰ってきてから語ったのを聞いて、
語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


* 小野篁は、遣唐副使に任ぜられながら、大使の藤原常嗣と争い、病と称して乗船を拒否した。これにより、隠岐への流罪となっている。
* なお、『 ほのぼのと あかしの浦の ・・・ 』の歌は、古今集に収録されていて、「読人しらず」とされていて、「ある人のいわく、柿本人麿が歌なり」と注釈されているもので、篁の歌とは考えられない。
     ☆   ☆   ☆

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