雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

金の釜を掘り当てる ・ 今昔物語 ( 9 - 1 )

2023-07-25 13:26:27 | 今昔物語拾い読み ・ その2

       『 金の釜を掘り当てる ・ 今昔物語 ( 9 - 1 ) 』


今は昔、
震旦の[ 欠字。「漢」が該当する。]代に、河内(カダイ・河南省の黄河以北の地域。)という所に、郭巨(カクコ・二十四孝の一人。)という人がいた。彼の父はすでに亡くなっており、母は健在であった。
郭巨は、一心に母の世話をしたが、何分貧しく常に飢えに苦しんでいた。その為、食べ物を三つに分けて、母に一つ、自分に一つ、妻に一つを当てていた。
そのようにして、長年の間、老いた母を養っていたが、やがて、妻が一人の男の子を生んだ。その子がしだいに成長し、六、七歳ほどになると、今まで三つに分けていた食べ物を四つに分けることになった。されば、母の食べ物はますます少なくなった。
そこで郭巨は、嘆き悲しんで妻に、「長年、この食べ物を三つに分けて母を養ってきたが、それでも食べ物の量は少なかった。それなのに、この男の子が生まれてからは、四つに分けているのでますます少なくなってしまった。私は、親に孝養したい気持ちがとても深い。そこで、年老いた母を養うために、この男の子を穴に埋めて無くしてしまおうと思う。このようなことは、有ってはならないことではあるが、ひとえに孝養のためである。そなたは、子を惜しんで悲しんではならない」と話した。

妻は、これを聞くと、涙を雨の如くに流して、「人が子を思うことは、仏もひとり子を大切に慈しむことを喩えに説かれています。わたしは、しだいに歳を重ねてから、たまたま一人の男の子を授かりました。自分の懐から引き離されるだけでも、愛おしい気持ちに堪えられません。いわんや、遙かな山に連れて行って埋めて帰ってくるなど、その悲しみはたとえようもなく想像することさえ出来ません。そうとは申しましても、あなたの孝養の心はもともと深く、あなたが決められたことをわたしが妨げれば、天の罰から遁れることが出来ないでしょう。それゆえ、ただ、あなたの心にお任せいたします」と答えた。

そこで、父は涙ながらに妻の言葉に感激して、妻に子を抱かせて、自分は鋤を持って、遙かに遠い深山に行き、すぐに子を埋めんが為に、泣く泣く土を掘った。三尺ばかり掘った時、鋤の先に固く当たる物があった。
「石かな」と思って、「掘って取り除こう」と思って、さらに力を入れて深く掘る。固いのをむりやり掘ってみると、石ではなく、一斗ほど入る黄金(コガネ)の釜があった。蓋が付いている。
その蓋を開いてみると、釜には文章が刻まれていた。その文章には、「黄金の一つの釜、天、孝子郭巨に賜う」とあった。
郭巨はこれを見て、「私の孝養の心が深いがゆえに、天が与えて下さったのだ」と喜び感激して、母は子を抱いて、父は釜を背負って家に帰った。

その後、この釜を割りながら売って、老いた母を養い暮らしをたてたが、乏しいことはなく、しだいに富貴な人となった。
すると、国王はこの事をお聞きになり、不思議に思って、郭巨を召して問われたので、郭巨は事の次第を申し上げた。国王は、それを聞いて驚かれ、釜の蓋を持ってこさせてご覧になると、まことにその文章が刻まれていた。
国王はこれをご覧になると、感激し貴く思い、すぐに国の重職に用いた。世間の人は、またこの話を聞いて貴き事と誉めた、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆ 

* 「二十四孝」とは、後世の範とすべき、優れた孝行の人を選んだもので、元の時代に編纂された。本巻の孝養の深いとされる人物として多く登場している。

     ☆   ☆   ☆


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