今回の記事は、前回、リンク先を貼った続き物の記事の一部です。
あまりに長く同じタイトルで書き進めたため、「読むのを途中であきらめました」という
お声もちらほらいただきました。
そこで、その中から、「遊びが広がらない自閉症の子との遊びを発展させる」ために重要と思われる個所だけ
抜き出して紹介しますね。
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前にも書いたことがあるのですが、
わたしが自閉症の子たちといっしょに遊びや物作りをする時には、
小林隆二先生が『関係発達臨床』で書いておられる
「関係発達支援の基本」をベースにしています。
「関係発達支援の基本」として挙げられる6つは、
ひとつひとつが非常に大切なことですが、療育の場や家庭で
実践されるのは難しい印象もあります。
関係発達支援という方法に賛同できない方はもちろんのこと、
たとえ共感していたとしても、
やってみたくてもどうすればいいのか
漠然としすぎてわからないという方が多いかもしれません。
というのも、わたしはこれまで
広汎性発達障がいの子を育てている親御さんに、そのひとつひとつについて
易しい言葉に言いなおしたり、実際やってみせたりして、
何度も何度も説明を試みてきたのですが、
わかっていただくのは、子どもに明らかな変化が現れ出した後や
何ヶ月もの期間を経て、親御さんがその言葉が意味することを身体で実感した後なのです。
それも、6つのうちのたったひとつのことを理解していただくのに、
それくらい困難が伴うのです。
でも、そのうちのたったひとつでも、
親御さんがしっかりと意味を把握し、
子どもへの対応に生かせるようになると、対人交流が困難な自閉傾向が強い子ほど
驚くほどの効果が現れることがあります。
何でも、即戦力が求められる時代です。マニュアルさえ覚えれば、技術はなくても
人に教えることができるし、そのように
「即座に誰でも実践できるようにならない教授法」は
やっても意味がないと考える方までいます。
でも、「自転車に乗る」とか「けん玉をする」といった誰でもできるようなイメージのものも、
初めて取り組む時には、一定の練習期間がいりますし、
何度もくじけそうになるような失敗をするものですし、
そうして身体でコツをつかむことが必要なのです。
対人関係に困難さを持つ子への接し方を習得するのは、
「自転車に乗る」とか「けん玉をする」といった技能をマスターするより
難しいか、時間がかかるかというと、
そんなことはありません。
でも、試してみたら即座に成功して、魔法のような効果が現れるほど
簡単でもありません。
子どもと真摯に向き合いながら、少しずつ関係を微調節していく強い意志と根気を
必要としています。
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「関係発達支援の基本」
1 関係欲求をめぐるアンビバレンスに基づく悪循環を断ち切ること
2 関係欲求を引き出し、受け止めること
3 彼らの好奇心を育むこと
4 子どもの対象への関心の持ち方を分かち合うこと
(私たちが認知する世界と、自閉症の子どもが捉える世界がいかに異なった様相を
呈しているか、彼らの心を動かすのはどのようなものか、彼らの視点に立って感じとることが大切)
5 子どもの対象世界を映し返すこと
(彼らの心の世界を私たちのことば文化で映しだすという営み)
6 快の情動興奮を分かち合い、高め、持続するように支援すること
(人間同士の気持ちが響き合うようになるために、快の情動の興奮が持続し、
容易に再現することが不可欠)
(『自閉症の関係発達臨床』 小林隆児 鯨岡 峻 編著 日本評論社)
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関係発達支援の基本として挙げられている内容のひとつひとつは、
子どもの発しているものと、大人の発するものの値の
「バランスをとる」ための感受性を磨くと、おのずとできるようになってくるものです。
でも、最初は難しいかもしれません。
なぜならわたしたちは広汎性発達障がいの子の目に映っているものにしても、
五感で感じているものにしても、心の世界にしても、
あまりにも知らないし、
知らないということすら知らない場合がほとんどなのです。
関係発達支援の基本で書かれていることとは、
よくわからない難しい方法が書かれているように見えて、
いたってシンプルです。
わたし流の易しい言葉に言い換えて、説明させてくださいね。
「わたしたちは自閉症の子の見ているものも感じているものも考えているものも
知らないんですよ。
ですから、自閉症の子と関係を築いていくには、
自閉症の子が嫌でたまらないことはしつこくしてはいけないし、
そのためにはどんなことを嫌がっているのか知らなくてはなりませんよ。
自閉症の子はハンディーゆえの理由があって、本当は人と関係を持ちたいと願っているのに
それが正しく表現できない状態にあるのですよ。
それをわたしたちは知らないのです。
ですから、自閉症の子が関係を持ちたくても持てなくなる理由について
よく理解して、関係を持ちたいという気持ちを引き出してあげなくてはなりませんよ。
自閉症の子の行動はいつもでたらめで、つまらないことにこだわってばかりいるように見えても、
そのなかにはその子の好奇心が隠れているのですよ。
それを見出し育む身近な人の感受性が必要です。
自閉症の子たちが何かに興味を持つ時、
その持ち方はわたしたちと同じではありません。
わたしたちはそれを知らないのですから、知ろうという好奇心を持つことが
大切です。
どのように世界を捉えているのか、その子が世界を見るように見て、
その子が世界を感じるように感じ、その子が世界を理解するように
理解してみてください。
すると、何がその子の心をつかみ、動かしているのか
感じとることができます。
自閉症の子がパニックを起こしているときばかり人は注目するけれど、
楽しいときもあるし、快を感じているときもあるのです。
その快の感情をいっしょに味わって、それがより高く長く持続するように、
サポートすることが必要なのです。
自閉症の子の問題行動をやめさせることに躍起になって、
不快な感情ばかり刺激して増幅させていては
自閉症の子は、いっこうに人と共鳴し合うよろこびを知ることができません。
どんなことを心地よく感じているのか、どのようにすればその心地よさを共感しあえるのかに敏感になって、
自閉症の子が人間同士の感情を響き合わせる体験ができるようにサポートをしましょう。
自閉症の子の心の世界はわたしたちの心の世界と少し異なります。
ですから、わたしたちの言葉で、わたしたちが見て感じて考えている世界を説明しても、
捉えている対象が異なるのですから、
ちぐはぐなのです。
自閉症の子たちに言葉の便利さや、おしゃべりする楽しさを伝えようと思ったら、
自閉症の子らが何を見て、何を感じて、何を考えているのかについて、
知れる限りの情報を集めて、自分の観察力を磨いて、自分の想像力を駆使して
しっかり把握しながら、
その子の心の世界に、
わたしたちの言葉を乗せていくことが大事ですよ」
シアトルの自閉症の子向けの幼稚園の写真です。↑