前回の続きは次回の記事で。
2、3歳児はまだまだお友だちと仲良く遊ぶのは難しい時期です。
とはいえ、「同じ年代の子はもう少し打ち解けて遊んでいるのに、うちの子は
遊びの輪に入ってもいかない」「お友だちにおもちゃをひとつも貸そうとしない」
「揉めてばかりで、遊んでいる時間がほとんどない」など、
子どもの性質が、内気過ぎたり、神経過敏だったり衝動性が強かったりする姿に
悩んでおられる方がおられることと思います。
その子がお友だちとたびたび起こすトラブルと同じシーンを、
大人が作った後で、
言葉で交渉しながら、創造的に解決する方法に導いていくと
次第に上手に遊べるようになっていきます。
いくつか具体的な例を紹介しますね。
↑の写真の●ちゃんは、神経過敏で人と接するときに強い緊張がある3歳の女の子です。
お友だちへの興味は芽生えてきていて、いっしょに遊びたい気持ちはあるのに、
お友だちが近づくと激しい口調で追い払ったり、いっさいおもちゃを貸すことができません。
お友だちに興味はあるけど、直接遊ぶのは怖い●ちゃんのために、
布で間仕切りを作って小部屋を作ってあげると、
「おもちゃをいっぱい、このお部屋に入れて!」と上機嫌で遊び始めました。
お部屋の中から●ちゃんが、「食べ物がいる!」と言うので、
ドーナツといちごを同じグループの☆くんに売りにいってもらうことにしました。
ところが●ちゃんは、おもちゃのお金の入った缶を手元に置いているのに、
食べ物を受け取ってもお金を払いたくありません。
自分の領域にあるおもちゃはいっさい他の子に触らせたくないのです。
そのため、「はい、~円です」と食べ物を渡して、お金を受け取る、
という交換遊びが成り立ちません。
そこでわたしが積み木のパンを売りに行くことにしました。
「こんにちは。パンですよ。100円ください」
●ちゃんは、パンは受け取るけれど、お金は渡したくありません。
でも、わたしと遊ぶときはいつも手渡してもすぐに返してもらえることを知っているので、
しばらくもじもじした後で、
「お金、すぐに返してくれる?」とたずねてきました。
「うん、すぐにね」と言ううと、●ちゃんはわたしに向かって500円玉を差し出しました。
お金とパンを交換した後で、わたしはすぐに間仕切りの布の下からお金を●ちゃんの方に
戻しました。
布の上でパンとお金を交換し、布の下からお金が戻ってくる仕組みが
面白くなった●ちゃんは、何度か交換を楽しみました。
その後、☆くんがパンを売りにきた時も、
またお金を返してもらえるという安心感からか、ちゃんと交換ができるように
なっていました。
そして、数回した後で、「もう、しない」と言いました。
そういう時に●ちゃんの言葉通り、さっぱりと終わりにしてあげることは
大事です。
緊張や不安が強い子は、
子どもが「イヤ」と言う時には、無理強いせずに
スッと引いてあげることが大事です。
2歳2カ月の◆くん。
パワフルで感情表現が豊かで利かん気の強い男の子です。
頭の回転が速くて、行動力があるので、
自分がこうと思うと、テキパキ動くしっかりさんですが、
お母さんの指示には聞く耳持ちません。
レッスン中に、レジのおもちゃで遊びたがったので、「どこで遊ぶの?」とたずねて、
本人の言う場所に置くと、自分で思いついて椅子を取ってきてセットすると、ちょこんと座って
遊び出しました。
そうして、次々、遊びを上手に作りだす◆くんですが、
お友だちが自分の遊んでいるおもちゃに触れようものなら、絶対、貸さないとばかりに
戦闘態勢に入って大騒ぎします。
大人たちが揉め事を仲裁しようとすると、火に油を注ぐ騒ぎです。
そこでわたしは◆くんがカートで遊んでいる時に、「そのショッピングカート、貸してよ!」と、
カートのかごに手をかけました。
「いや!」と◆くんはきっぱり。
「貸してよ~」とわたし。
「いや~!」と◆くん。
「じゃぁ、このパン、貸して」とカートのなかからパンを取り出します。
◆くんは考えながら、「いいよ」とこっくりしました。
「じゃぁ、このいちごも貸して」とさらにカートのなかからいろいろ取りだすわたしに、
◆くんは考えこみながら「いいよ」と言います。
最後にカートについているバーコードを読み取る機械を指して、
「これ貸してよ」とお願いしました。
◆くん、固まっていますが、しばらくして差し出しました。
「ありがとう~」というと、わたしは、それらのおもちゃを◆くんのカートに
返しました。
すると、◆くん、今度は「いいよ~」と貸すことが面白くなったようで、
頼んでもいないのに、わたしに「どうぞ」といろいろ差し出してくれます。
お友だちの☆くんにも、「どうぞ」と
カートから何か取りだしては渡しに行ってました。
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●ちゃんにしても、◆くんにしても、
「ダメー」「貸さないー」という強い姿勢でお友だちに反発するのは、
それ以外の態度を取ってみた体験がないからでもあるのです。
また、自分の手元から何かがなくなっていくことへの
強い不安感があるからでもあります。
そこで大人が厳しく、「貸してあげなさい!」と教える態度で介入していると、
余計に防御を固くして、
お友だちと遊ぶこと自体難しくなったり、
揉めてばかりで遊び時間がなくなってしまったりするのです。
たとえ2、3歳という幼い子でも、
ふざけあったり、じらしたり、渡すとすぐに返してもらえたり、優しくされたり、
自分から相手にプレゼントするときの楽しさを味わったり、
自分で決めるまで待ってもらったり、
たくさん小さな願いを叶えてもらえたり、「イヤ」と言う気持ちをていねいに扱ってもらったりすると、
自分で創造的に問題を解決するようになります。
お友だちと仲良く、より楽しく遊ぶにはどうすればいいのか、
自分で判断して行動するようになります。
そのためには、子どもの心を大切に扱ってあげることと、
子どもが自分でよい方を選べるようになるまで、待ってあげることが大事です。