金木犀、薔薇、白木蓮

本と映画、ときどきドラマ。
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193:森茉莉 『父の帽子』

2006-09-19 11:01:33 | 06 本の感想
森茉莉『父の帽子』(講談社文芸文庫)
★★★★★

再々読。
森鴎外の長女・森茉莉のエッセイ集。
Reading Batonにも挙げたけれど、大好き

似た経歴をたどってくると心情的な共通点も多いのかもしれないけれど、
わたしのまわりには「ファザコン」が多い気がする。
男の「マザコン」とはちがって、女の「ファザコン」は
実際的な利をともなうことが少ない絶対的な信頼だと思う。
わたしは「家長」「父親」というイメージにすごーく弱いのだけど、
その発端になった本が大学時代に読んだこれ。
表題作もよいけれど、記憶の中の風景を美しい言葉で描き出した
「幼い日々」が好き。

『あぐらをかいて坐ると、胸の釦と釦の間がたるんだように口を開いていて、その軍服の胸の中に、小さな胸一杯の、私の恋と信頼とが、かけられているのだった。「パッパ」。それは私の心の全部だった。父の胸の中にも、私の恋しがる小さな心が、いつでも、温かく包まれて入っていた。私の幼い恋と母の心との入っている、懐かしい軍服の胸で、あった。』

「父の手紙」の菫の押し花の話も好きなのだけれど、
「幼い日々」のこの部分を読むとなんだかいつもほろっときてしまう。
きちんと母の心も入っているところがね。

センチメンタルな思い出だけではなく、
「半日」によって母に悪妻の評が定着してしまったことに対するわだかまり、
父の人間性に対する冷静な考察も述べられていて、興味深い。

しかし……この薄い文庫で940円はちょっと高いよね。

そのほか鴎外の子どもたちの随筆。
森於菟   『父親としての森鴎外』
小堀杏奴  『朽葉色のショール』『晩年の父』
森類    『鴎外の子供たち―あとに残されたものの記録』




コメント
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