そのお寺への道すがら、私とご夫婦とは特に会話らしい会話はなかった。「ほぉ~この辺は立派なお屋敷もあるなぁ~」「そうですねぇ~駅から少し遠いですけど、いい所ですねぇ~」などと夫婦のむつまじい会話が続くので自分は介入するつもりはなかった。というか、傍らでの私の存在は最初から眼中にないようである。さながら自家用車に乗った社長夫妻とお抱え運転手のような光景である。さていよいよ着いた。「・・・あ どうもあそこのお寺のようですよ」と私が指を指した。すると「うむ、おぉ、そうじゃ、そうじゃの、ほれ見てごらん」「まぁ、立派なお寺ですこと」と相変わらず案内人の存在には無頓着なのである。