吉田クリニック 院長のドタバタ日記

日頃の診療にまつわることや、お知らせ、そして世の中の出来事について思うところ書いています。診療日には毎日更新しています。

宙ぶらりん その5

2011年07月16日 06時54分34秒 | インポート

間違いなく歯車の先端は腋窩動脈に食い込んでいる。すぐに歯車をとめさせ動脈の上流の組織を剥離し動脈を露出させ、そこに糸をまわして緊縛した。そしてまた徐々に歯車を逆回転させ、動脈壁に食い込んでいる歯車から完全に上腕を抜くことができた。ところが次の瞬間、腕の傷口からは突然ワ~っという勢いで出血しはじめたので慌てて傷口にガーゼを詰めて押さえ込んだ。私の顔面は傷病者よりもきっと蒼白であったろうに。当たり前である。腋窩動脈の下流側の断端は開きっぱなしである。そんなことも気がつかないのは無謀な研修医だったからであろうか? 傷病者はこの出血に驚いたようだ。しかし日頃から教え込まれていたが「意識のある患者の前で狼狽するな。患者はそれで不安が増して時に暴れたりするので危険だ」ということを思い出した。自分は「あ、あぁぁ ・・・こっ、これは・・平気ですよおぉぉ。大丈夫だねぇ・・」と力なく患者に向かってつぶやいた。