自分が研修医時代に経験した歯車に上腕を挟まれた患者さんをことは、実は父の昔のエピソードを最近母から聞いたので思い出したのである。父が開業したての昭和30年代前半のころの話である。新築の家かなにかの工事現場で、大工さんが高い梁に打った釘に腕をつきさして宙ぶらりんになってしまい、その救出に父が呼ばれたのであった。父は「そんな高いところじゃ手当はできないから、柱をきってケガ人をおろしなさい」と周囲の職人に命じたそうだ。そこで柱が切られ職人は地上に降ろされ父の処置を受けたそうだ。何の外傷教育も行われていない時代に、現代の外傷初療のゴールデンスタンダードを遂行したのかと思うと父も大したもんだと思った。しかしながら親子して似たような経験をするもんだなとこれまた不思議な感覚である。まあその後、父が患者さんに感謝されたか恨まれたかどうかは母から聞いていないので定かではない。