まず、すぐに傷病者にとりついたことは安全管理面で失格である。次に傷病者は顔面蒼白でいわゆるショック状態なので、酸素投与と点滴ラインを確保すべきであった。まさに創部から歯車をはずして大出血でもされたら患者の命はなかったろう。まあとりあえず何とか出血を押さえ込めたのは運が良かったとしか言いようがない。その後は傷口に詰めたガーゼを思い切り両手で押さえつけて、救急車に乗り込み病院にむかった。車内ではガーゼの隙間からあふれてくる出血にガーゼを追加し握りこんだが傷病者は「痛いよ、痛いよ、きつく握らないでくれよ、何とかしてくれ」と私をにらむのであった。自分は「こんなことするのは生まれて初めてなんだよ。しょうがないだろ。こっちだって辛いんだよ」と言いたかったが、そんなことを口にできるわけはなかった。医者とは因果な商売である。