当時勤めていた病院は大きな病院だったが、田舎の病院であり周辺人口も多くはない。他の通院患者さんからの風聞で、「触った感覚もない動きもしないこんな腕が肩からついていても邪魔でしょうがない。あの時現場でバッサリと切ってくれたほうがよっぽどよかった。くっつけてくれた人を恨みたいよ」と言っているのを聞いた。とても申し訳ない気持ちになったが、さりとて現場で腕を切断すべきという判断も技術も当時の自分にはなかったのでこれはもうしょうがないことだろう。自分を含めた多くの人の努力と熱意というものが、その人にとって時に好まない結果になることもあるのだとこの時はじめて知った。世の中には頑張らなくてもいい医療というものも存在するようだ。しかし、あの時現場で頑張ったからこそ失血死させなかったのであるから、けっして間違ったことをしたわけではないだろう。いやはや感謝されるか恨まれるかなんて紙一重である。