顔が見えないご家族というのは、奇妙な表現であるが「不気味」なのである。長く通院する患者さんの診療の中でよく話題にでてくるご家族のことは、患者さん本人はもちろんよく知っているが、付き添いでクリニックにこなければ自分は一度も会っていないのである。ここで話によく出てくるからといって自分もご家族のことを熟知していると誤解してはいけないのである。その人がいい人なのか、いい人ではないのか、あるいは患者さんの病気の程度をどのくらい把握しているのか、あるいは実生活の上で患者さんとどの程度かかわりを持っているのか?(つまりキーパーソンなのかどうか)が分からないのである。そのような人から「~してもらえ」と要望がでても、なかなか「はいそうですか」と100%聞き入れるのは抵抗があるのである。診療とは「契約上に成り立つ」とはいうものの、実は信頼関係が重要である。もちろん患者さんから自分が信頼されるかどうかというのも何回か診察に来られてからであろうし、その逆でこちら側が患者さんを信頼するのも何回かの診察のあとのことである。ましてや後ろにいる「ご家族」とやらは、一度もお会いしたことがなければ、いつまでたっても信頼するには至らないのである。
『○○から~してもらえと言われました』という言葉を患者さんから聞くたびに「ん? だからどーした」と思うのもやむを得まい。
『○○から~してもらえと言われました』という言葉を患者さんから聞くたびに「ん? だからどーした」と思うのもやむを得まい。