昨夜はたくさんの夢を見た。
全部を記録すると短編小説集ができるほどいくつもの多彩な夢だった。
しかし、それらをちゃんとした文章に書き記すだけの能力を持ち合わせていないので、とくに印象が深かったものをひとつだけ書き留めておくことにする。

僕はまだ高校生かその少し上ぐらいの若者だった。
プールで泳いでいると誰かが見つめているような気配がした。目を上げると少し離れた高台の家の庭に、緑色の服を着た女性と2、3歳ぐらいの子供がいてこちらを見ていた。親子らしい。
プールから上がった僕はそこへと行ってみた。
しかし、そこにはもう先客がいて、なんとそれは、僕が飼っていた「寿限無」という名の犬であった。
寿限無は、その幼児と戯れているというか、むしろその玩具になっているようで、耳を引っ張られたり、口の中に拳を入れられたりしていた。
野性味いっぱいに育ててきた犬なので、なんかの拍子にその幼児に噛み付いたりするのではと少し気になったが、緑の服の女性は先回りするように、「すっかり遊んでもらっています」と穏やかに微笑みながらいった。
そこへ、幼児の兄にあたると思われる小学生ぐらいの少年が息せき切って現れて、「ねえ、母さん、今度のサッカーの試合、見に来てくれるよね」と念を押すように尋ねた。
女性は、あいまいな表情のまま、「さあ・・・」と首を傾げた。
少年の表情が曇ったのを見た僕は、「大丈夫だよ、お母さんはきっと行くと思うよ」といった。
少年は僕の方を見据えて、「じゃぁ、お兄さんも来てよ」といった。
とっさに僕は、「いや、いろいろ事情があるから」といってしまった。
「そうよね、みんな、いろいろ事情があるのよね」と女性が自分の足元に視線を落として淋しげにつぶやいた。
少年はその母と僕とを交互に見つめた。
幼児は立ち上がって自分の居場所を探しているようだった。
寿限無はというと、いつのまにか僕の足元へ来て寄り添っていた。
女性だけが、遠くを見る眼差しで白い椅子にかけていた。
まるで、芝居のラストシーンのような情景のなかで僕は困惑して立ち尽くしていた。
彼女が着ている服の緑が視界を遮るように広がるなか、僕はなにかとてつもない嘘を振りまいてしまったかのように自分を責めながら、胸が苦しくなって目が覚めた。
なぜ、その少年に、「よし、じゃあ見にゆくか」といってやらなかったのかと思ったのは目覚めてからだった。あの若さの僕に「いろいろな事情」などあるはずがなかった。
しかし、そのことが重要だったのかどうかもわからない。
この夢をあえて解釈しようとは思わない。
覚めた後しばらくは、キューンとした郷愁にどこかでつながるような気がした。
登場する人間はすべて見知らぬ人であったが、犬だけは紛れもなく寿限無であった。
その寿限無も世を去ってからもう20年になる。
もちろん、この夢に似た経験などは一切したことはない。
全部を記録すると短編小説集ができるほどいくつもの多彩な夢だった。
しかし、それらをちゃんとした文章に書き記すだけの能力を持ち合わせていないので、とくに印象が深かったものをひとつだけ書き留めておくことにする。

僕はまだ高校生かその少し上ぐらいの若者だった。
プールで泳いでいると誰かが見つめているような気配がした。目を上げると少し離れた高台の家の庭に、緑色の服を着た女性と2、3歳ぐらいの子供がいてこちらを見ていた。親子らしい。
プールから上がった僕はそこへと行ってみた。
しかし、そこにはもう先客がいて、なんとそれは、僕が飼っていた「寿限無」という名の犬であった。
寿限無は、その幼児と戯れているというか、むしろその玩具になっているようで、耳を引っ張られたり、口の中に拳を入れられたりしていた。
野性味いっぱいに育ててきた犬なので、なんかの拍子にその幼児に噛み付いたりするのではと少し気になったが、緑の服の女性は先回りするように、「すっかり遊んでもらっています」と穏やかに微笑みながらいった。
そこへ、幼児の兄にあたると思われる小学生ぐらいの少年が息せき切って現れて、「ねえ、母さん、今度のサッカーの試合、見に来てくれるよね」と念を押すように尋ねた。
女性は、あいまいな表情のまま、「さあ・・・」と首を傾げた。
少年の表情が曇ったのを見た僕は、「大丈夫だよ、お母さんはきっと行くと思うよ」といった。
少年は僕の方を見据えて、「じゃぁ、お兄さんも来てよ」といった。
とっさに僕は、「いや、いろいろ事情があるから」といってしまった。
「そうよね、みんな、いろいろ事情があるのよね」と女性が自分の足元に視線を落として淋しげにつぶやいた。
少年はその母と僕とを交互に見つめた。
幼児は立ち上がって自分の居場所を探しているようだった。
寿限無はというと、いつのまにか僕の足元へ来て寄り添っていた。
女性だけが、遠くを見る眼差しで白い椅子にかけていた。
まるで、芝居のラストシーンのような情景のなかで僕は困惑して立ち尽くしていた。
彼女が着ている服の緑が視界を遮るように広がるなか、僕はなにかとてつもない嘘を振りまいてしまったかのように自分を責めながら、胸が苦しくなって目が覚めた。
なぜ、その少年に、「よし、じゃあ見にゆくか」といってやらなかったのかと思ったのは目覚めてからだった。あの若さの僕に「いろいろな事情」などあるはずがなかった。
しかし、そのことが重要だったのかどうかもわからない。
この夢をあえて解釈しようとは思わない。
覚めた後しばらくは、キューンとした郷愁にどこかでつながるような気がした。
登場する人間はすべて見知らぬ人であったが、犬だけは紛れもなく寿限無であった。
その寿限無も世を去ってからもう20年になる。
もちろん、この夢に似た経験などは一切したことはない。