家の固定電話が鳴る。
取り上げる。
「〇〇○さんのお宅ですか?」
フルネームで呼ばれる。
「そうですが・・・」
「ご本人ですか?」
「そうです」
「こちら岐阜市役所の社会福祉課の者ですが」
「はい」
「昨年末に医療費還付金の案内をさし上げたのですがご覧になりました?」
「いや、見ていません。見落としたのかも・・・」
「やはりそうでしたか。それでお電話したのですが」
「はい」
「実はお宅の還付金は42,900円なんですが」
ここんところ医療費使ってるもんなぁと改めて思う。
「ところがですね、昨年末の申請に応じていただけないものですから、三月末で期限切れになっています」

え、え、え、42,900円がパーなの。いくぶん焦る。
「そこでですね、期限切れ以降はお取引の金融機関との業務委託という制度があってそれを通じてお支払いができるのですが」
「業務委託ねぇ。それってどんな制度ですか」
「それをご説明するためにはお宅の取引銀行をお知らせいただく必要がありますが」
「岐阜市内の殆どの銀行と取引がありますが」
「そのうちの一つを教えて下さい。主にお使いになるところ」
まあ、銀行名ぐらいまでならと
「@@銀行ですが」
「それでは、そこを通じてお支払いするために、あなたの勤務先かご親族の方の名前、それにあなたの携帯電話の番号をお知らせください」
「無職ですから勤務先はありません。とくに名前をお知らせする親族はいません。それに携帯は持っていません」

「え?携帯はないのですか」
「はい」
「困りましたねぇ。それでは42,900円が宙に浮いてしまいます。なんとか受け取っていただけませんか」
「もちろんいただきますよ。ただそれにはいろいろ手続きなどが必要なんでしょう」
「ですから、こうやってご案内を」
「しかし、もう歳ですから電話では覚えられませんし、文書でご連絡いただけませんでしょうか」
「文書でですか?」
「ハイそうです。お願い致します」
「………」
「それではよろしくお願い致します」
ガチャン。
もうお気づきだろうが、いわゆる還付金詐欺の序の口でである。
それにしても、42,900円とは釣りの金額としては妥当ではある。
諦めるには大きいから、それが貰えるならとつい付き合ってしまいそうだ。

どこで気づいたかというと、実ははじめからである。
電話の相手の口調が市役所などのものとは違う。むしろ、PCやプリンターのサポートセンターへ電話したときの感じなのだ。人の感情を損ねないようにと、バカ丁寧なのだ。それでもひょっとしてと思って聞いていたら、どんどん不自然な点が出てくる。
金融機関へ「業務委託」というのも変だ。4文字熟語を使えば恐れ入ると思っているのだろう。
それに市が、取引銀行や携帯の番号を電話で聞いてくるのも不自然だ。
もちろん、携帯はもっているが、こんな連中に教えることはない。
親族の名前など教えたら(市なら把握しているはず)、被害が拡大する可能性が大である。
よほど最後まで話を聞いて、事前に警察に連絡し、現場逮捕まで付き合ってやろうかとも思ったが、いまは、三つほどの用件を同時に抱え込んで超忙しい時期で、電話でダラダラ話している時間ももったいない。
それでも、どうも岐阜市の老人を狙っていそうなので、一応、警察に通報だけしておいた。
そしたら、是非お話を伺いたいから、これからおじゃまするという。
う~ん、そんなに大げさにするつもりはなかったのにと悔やんだがしかたがない。
結局受け入れたら、15分ぐらいして、女性2人、男性1人の3人も現れたので驚いた。
警察のなかでも生活安全課というところだからこんな構成になるのだろうか。
長引くと嫌だなぁと思っていたが、けっこうあるケースらしく、10分か15分で済んだのでホッとした。
しかし、いつまでこうやって対応しうるだろうか。そのうちに警戒心や注意力も緩んで、42,900円という手頃な金額に引っかかって手痛い目にあうのではないだろうか。
こういう生き馬の目を抜くような連中がうようよいるなかで、老いてゆくリスクは並大抵ではない。
こういう「世間」の餌食になるか、こちらの命が終焉を迎えるかの競争のようなものだ。
取り上げる。
「〇〇○さんのお宅ですか?」
フルネームで呼ばれる。
「そうですが・・・」
「ご本人ですか?」
「そうです」
「こちら岐阜市役所の社会福祉課の者ですが」
「はい」
「昨年末に医療費還付金の案内をさし上げたのですがご覧になりました?」
「いや、見ていません。見落としたのかも・・・」
「やはりそうでしたか。それでお電話したのですが」
「はい」
「実はお宅の還付金は42,900円なんですが」
ここんところ医療費使ってるもんなぁと改めて思う。
「ところがですね、昨年末の申請に応じていただけないものですから、三月末で期限切れになっています」

え、え、え、42,900円がパーなの。いくぶん焦る。
「そこでですね、期限切れ以降はお取引の金融機関との業務委託という制度があってそれを通じてお支払いができるのですが」
「業務委託ねぇ。それってどんな制度ですか」
「それをご説明するためにはお宅の取引銀行をお知らせいただく必要がありますが」
「岐阜市内の殆どの銀行と取引がありますが」
「そのうちの一つを教えて下さい。主にお使いになるところ」
まあ、銀行名ぐらいまでならと
「@@銀行ですが」
「それでは、そこを通じてお支払いするために、あなたの勤務先かご親族の方の名前、それにあなたの携帯電話の番号をお知らせください」
「無職ですから勤務先はありません。とくに名前をお知らせする親族はいません。それに携帯は持っていません」

「え?携帯はないのですか」
「はい」
「困りましたねぇ。それでは42,900円が宙に浮いてしまいます。なんとか受け取っていただけませんか」
「もちろんいただきますよ。ただそれにはいろいろ手続きなどが必要なんでしょう」
「ですから、こうやってご案内を」
「しかし、もう歳ですから電話では覚えられませんし、文書でご連絡いただけませんでしょうか」
「文書でですか?」
「ハイそうです。お願い致します」
「………」
「それではよろしくお願い致します」
ガチャン。
もうお気づきだろうが、いわゆる還付金詐欺の序の口でである。
それにしても、42,900円とは釣りの金額としては妥当ではある。
諦めるには大きいから、それが貰えるならとつい付き合ってしまいそうだ。

どこで気づいたかというと、実ははじめからである。
電話の相手の口調が市役所などのものとは違う。むしろ、PCやプリンターのサポートセンターへ電話したときの感じなのだ。人の感情を損ねないようにと、バカ丁寧なのだ。それでもひょっとしてと思って聞いていたら、どんどん不自然な点が出てくる。
金融機関へ「業務委託」というのも変だ。4文字熟語を使えば恐れ入ると思っているのだろう。
それに市が、取引銀行や携帯の番号を電話で聞いてくるのも不自然だ。
もちろん、携帯はもっているが、こんな連中に教えることはない。
親族の名前など教えたら(市なら把握しているはず)、被害が拡大する可能性が大である。
よほど最後まで話を聞いて、事前に警察に連絡し、現場逮捕まで付き合ってやろうかとも思ったが、いまは、三つほどの用件を同時に抱え込んで超忙しい時期で、電話でダラダラ話している時間ももったいない。
それでも、どうも岐阜市の老人を狙っていそうなので、一応、警察に通報だけしておいた。
そしたら、是非お話を伺いたいから、これからおじゃまするという。
う~ん、そんなに大げさにするつもりはなかったのにと悔やんだがしかたがない。
結局受け入れたら、15分ぐらいして、女性2人、男性1人の3人も現れたので驚いた。
警察のなかでも生活安全課というところだからこんな構成になるのだろうか。
長引くと嫌だなぁと思っていたが、けっこうあるケースらしく、10分か15分で済んだのでホッとした。
しかし、いつまでこうやって対応しうるだろうか。そのうちに警戒心や注意力も緩んで、42,900円という手頃な金額に引っかかって手痛い目にあうのではないだろうか。
こういう生き馬の目を抜くような連中がうようよいるなかで、老いてゆくリスクは並大抵ではない。
こういう「世間」の餌食になるか、こちらの命が終焉を迎えるかの競争のようなものだ。