今度は教育分野での聖句主義化の事例を見ましょう。
世界の若きビジネスマンがそこでMBA(経営修士号)をとることを夢見る経営大学院の
ナンバーワンは米国マサチュセッツ州にあるハーバードビジネススクール(HBS)です。
この学校は二十世紀初頭に新しい経営教育手法を編み出しました。
ケースメソッドと称するその手法は、まずケースライターと呼ばれる教員らが、
企業に出向いて経営判断を要した事件を聞き出します。
そしてそれを事例として記述した小冊子を造ります。
これがケースブック、略してケースと呼ばれています。何冊も何冊もつくります。
このケースを用いた学習をこの大学院では三段階に構成しています。
まず、個々人がケースを読んで自己の見解を作る段階。これが個人研究です。
次に数人の小グループに分かれて行う討議。これがグループ研究です。
そして最後の第三段階は、大きな教室に全員が集まり討議するクラスディスカッションです。
担当教授はこのとき登場します。そして学生の討議をリードします。
その際、彼はディスカッションの状況に応じて随時参考知識を提供します。
そして時間が来ると結論めいたことは言わずに教室を去る。以上です。
これを数多くのケースについて繰り返して学生は卒業していきます。
これで効果は出るか。出るから世界から学生が集まり続けるのでしょう。
学生はケースに記述されている経営問題の唯一の正解を学ぶのではありません。
経営問題への解決法はいくつも出るからです。
だがその経営事例を自由に討議することを通して、各人は自分なりの悟りを
積み重ねていくことができます。
多種多様な事例に関してそういう悟りが集積すると、それが彼らの知恵になる。
そしてその知恵は、経営の一般理論を学んで得られるよりもはるかに実践力のある
知恵になるのです。
その効果が評価されて、いまや米国の多くの経営大学院がこの方式を取り入れるように
なっています。日本にもこの出店のような活動をしている大学院があります。
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だが本書の読者はこれを読んで、どこかで聞いたような話だと思われるでしょう。
そうです。これは聖句主義教会の聖句吟味活動のほとんどそのままなのです。
その多くは前述してきましたが、改めてまとめましょう。
聖句主義教会が昔から続けてきている聖句吟味活動も三段階方式になっています。
教会員はまず自宅で次回にグループで討議する聖書箇所の個人研究します。
次いで、日曜日の礼拝の前に教会の小部屋に集まって1時間半ほどの
スモールグループ討議を行います。結論は出しません。
それが終わると全員が会堂に集まって礼拝をします。
礼拝では教会員は討議はしませんが、牧師は自己の主張の根拠としている聖句箇所を
ひとつひとつ示しながら、メッセージ(説教)をします。
散会後、教会員は牧師の説教を自由に論評しています。
これでおわかりのように、天下のハーバードビジネススクールの教育手法(ケースメソッド)は
二千年にわたって行われてきた聖句主義活動様式のほとんど丸ごとコピーなのです。
ならば少なからぬ成果が出るのは当然でしょう。
そしてこれを空から見ると、教育界に聖句主義化が進展しているという風景になります。
聖句主義活動の中心である聖句吟味の手法が波及している一例となるのです。