WBCは日本代表が優勝した。ちょうど大阪伊丹空港に着いたのは、ダルビッシュ有が投げはじめた9回裏、テレビの前には凄い人だかり。韓国代表が同点に追いつき、悲鳴があがった。サヨナラ負けを見る度胸がなく、すぐに搭乗手続を行ってゲートに移動した。延長戦に入っていた。そこから、飛行機に乗り込むぎりぎり前に、運良く試合終了までを見ることができた。
10回表のイチローのタイムリー後(左)、大阪伊丹空港での優勝の瞬間(右)
それにしても、異常なほどの盛り上がりようだ。日本の国旗の真ん中は日の丸ではなく野球のボールだ、と言ったのは、ロバート・ホワイティングだったか。普段プロ野球やMLBに興味を持っていなさそうな人でも、ここのところ、職場で一喜一憂している。監督交代のごたごたがあったためか、それとも、メディアの宣伝が奏功しただけなのか。(保守寄りの発言を繰り返す前代表監督が、これで人気を得て、政界に登場するような醜い姿を見ることがなかったのは、少なくとも、ほっとすることである。)
どう少なく見積もっても日本には野球評論家が500万人はいるだろうから、日本代表の試合ぶりを云々することはやめておくとして(ただ、浦安の星・阿部慎之介がいまいち活躍しなかったのは残念だ)。CATVで録画しておいたキューバ対メキシコ、米国対ベネズエラ、米国対プエルトリコ、ベネズエラ対プエルトリコなんかをあとで暇潰しに観るのが楽しみである。ちょっと観ただけでも、キューバ代表選手たちの動きはとても魅力的で、空振りしたバットが観客席まで飛んでいくような豪快さもある。ドラゴンズで今ひとつ活躍できなかったオマール・リナレスの姿は、やはり峠を越していたそれだったのだな、と改めて感じたりした。
国威発揚という面でいえば、韓国の保守系新聞である『朝鮮日報』、『中央日報』、『東亜日報』の日本語版を、毎日チェックしていた。奉重根のピッチングがイチローを抑えたからといって、安重根(名前が似ている)と伊藤博文に重ね合わせて「奉重根義士」「イチロー博文」と書いていたのにはさすがに驚かされた。ただ、別の背景を持つ声に耳を傾けることは、テレビのバラエティで「侍ジャパンがどうじら」と騒いでいるのをみるよりも遥かに大事なことだ。むしろ、それに対する日本側からの過剰なコメントを読むのはその何万倍も嫌なものだった。それから、フィデル・カストロの声はとても人間的だった。そういえばベネズエラのチャベス大統領も野球好きだったはずだが、何か面白い発言をしていないだろうか。
今回は、『Number』(文藝春秋)が、WBC開催前に特集号を組んでいる。今度改めて出されるであろうWBC特集号がとても楽しみだ。3年前の特集号では、地下鉄の吊り広告に使われていた写真が素晴らしく、よほど引き抜いて丸めて逃げようかと考えた。今度はどんなライヴ写真が採用されるのだろう。
「来年の春、われわれはWBCの不在に気付いて、寂しさと物足りなさを覚えるのではないか。」(芝山幹郎、前回WBC特集号より)
今回開催前の特集号
前回開催後の特集号
前回特集号の吊り広告に使われた写真