Sightsong

自縄自縛日記

ソ連のアフガニスタン侵攻 30年の後

2009-06-08 22:01:29 | 中東・アフリカ

●『一坪反戦通信』に寄稿した。

書評『コント「お笑い米軍基地」芸人の『お笑い沖縄ガイド』を読む』について、JanJanの5月の編集部長賞をいただいた(>> リンク)。

東京外国語大学主催の研究シンポジウム「30年の後:イラン革命、アフガニスタン侵攻、中東和平・・・・・・ 世界を揺るがした1979年の中東と世界を振り返る」が、6月6、7日の2日間開かれていた(秋葉原UDX)。「中東カフェ」で温暖化について話した縁もあって、折角なのでセッション4「ソ連のアフガニスタン侵攻」を聴きに出かけた。

シンポジウムの意義として、「9.11事件の背後にあるビン・ラディンの出現が、ソ連のアフガニスタン侵攻に対する米国の政策の結果のひとつであることは、しばしば指摘されますし、現在に続く米国の湾岸政策の試行錯誤は、イラン革命に起源を発します。」とある。自分にとってこれらの出来事は後付けの知識でしかない。しかし1989年の天安門事件、ベルリンの壁崩壊、チャウシェスク処刑などは生々しく記憶にある。いまから20年前と30年前、たった10年の違いしかない。個人史などという些細なものに沿って考えるのでは駄目である。

以下、当日のメモから。

■金成浩(琉球大学) 「米ソ冷戦とアフガニスタン~歴史の教訓としての1979年~」

ソ連崩壊時、短期間ではあるが情報の流出が進み、研究が進んだ。

79年に暗殺されるタラキー革命評議会議長はブレジネフと関係が近かった。ただブレジネフは70年代半ばから重度の血行障害のためリーダーシップをとることができず、ソ連では、グロムイコ(当時外相)、アンドロポフ(当時KGB)、ウスチノフ(当時国防相)らによるアフガン委員会で重要事項を決定していた。ソ連は暗殺前からアミン副議長の不穏な動きを察知しており、KGBはアミン暗殺の準備までしていた。アンドロポフやグロムイコは、アミンが米国寄りの政策を取る可能性を危惧していた。そして12月12日、侵攻を決定する。ソ連側は、SALT2の軍縮路線が破綻することを織り込み済みだった。

一方米国は、79年7月の段階で、カーター政権がアフガン反政府勢力に援助することを決定していた。このことは、ゲーツ現・国防長官(当時CIA)、ブレジンスキー(当時大統領補佐官)の証言でわかっている。つまり、ソ連がアフガンに侵攻したから反政府勢力に支援を決めたわけではない。

アフガンという場で米ソ冷戦が行われた。米国には、ヴェトナムと同様の苦労をソ連に負わせ、あわよくばソ連崩壊に追い込みたいという意図もあった。そしてソ連崩壊後、米国はアフガンに対する関心を低下させ、のちに9.11事件が起きる。すなわち、大国が小国を巻き込んだパワーゲームを行った挙句に見捨てておくと、いずれツケが大国に戻ってくる、という歴史上の教訓として汲み取っていくべきである。

■田中浩一郎(日本エネルギー経済研究所) 「『パンドラの箱』を開けて訪れる『終わりの始まり』」

侵攻が災いの発端であった。今に到るまでアフガンの状況は好転しない。仮に侵攻がなければ、ソ連崩壊も、冷戦終結も、湾岸戦争も、9.11もなかった可能性さえある。「パンドラの箱」を開けてしまったのだ。

ソ連時代、アフガンの少数民族の意識を意図的に高めた。これは将来の分割統治につなげるためだった。また伝統的な地方単位の統治システムが崩れてしまった。いまは国境管理が脆弱で、パキスタンによる介入などにも弱い。そのパキスタンも、「失敗国家」に向けて歩んでいる。隣接するインドにとっては悪夢だ。―――など、さまざまな国・地域がバランスを崩している。

■山根聡(大阪大学) 「対ソ連戦争直前のアフガニスタンにおけるイスラーム運動」

アフガンにおいて、「ジハード」と一口に言っても、「イスラム的でないもの」として敵対視する対象は共産主義・ソ連であったり、内戦であったり、米国であったりと多様である。もともと、伝統的社会においては宗教的なイデオロギーは入っていなかった。

イスラームの理念を掲げた国家建設を志向するイスラーム主義において、知識人を中心にしたエジプトの影響は大きく、親共産主義政権への批判が強まっていった。西側諸国は、それがジハードであっても、対共産主義であったから黙認した。ソ連が崩壊してその論理は崩れた。

70年代以降、サウジ、クウェート、カタール、カナダなどに多くのアラブ系NGOがつくられ、アフガンを支援している。これらが地道に根を張っていることには注目すべきだ。

―――など。あまり当方に予備知識がないので、これくらいしか記すことができない。金成浩・琉球大学教授の講演がとくに興味深く、著書『アフガン戦争の真実―米ソ冷戦下の小国の悲劇』(NHKブックス、2002年)で勉強しようと探してみたが、すでに品切れになっている。