Sightsong

自縄自縛日記

ジャズ的写真集(6) 五海裕治『自由の意思』

2009-06-16 00:53:36 | アヴァンギャルド・ジャズ

PSF Recordsが出版している音楽雑誌『G-Modern』が好きで割と持っている。いつも巻頭には写真家・五海裕治による音楽家の写真と、インタビュー記事が掲載されている。写真は、顔をアップで撮ったポートレートと、状況的な風景とのセットだ。これを集めた写真集が『自由の意思~アンダーグラウンド・ミュージシャンたち~』(P.S.F.、2003年)で、限定500部、CD付きである。定価が7,000円とかなり張るものだったので当時買えず逡巡していると、しばらくして、古本が格安で出ていた。一も二もなく確保した。

掲載された音楽家は、順に、吉沢元治・沢井一恵・Butch Morris・井上敬三・金大煥・金子飛鳥・大友良英・Derek Bailey・天鼓・Barre Phillips・友川かずき・George Lewis・向井千恵・Steve Beresford・灰野敬二・Han Bennink・今井和雄・山崎比呂志・Peter Brotzmann・豊住芳三郎・Lee Konitz・Charles Gayle・三上寛・Arthur Doyle・浦邊雅祥・白石民夫・福岡林嗣・石塚俊明・川仁宏。CDに収められたのは、順に、今井和雄・吉沢元治・大友良英・Derek Bailey・石塚俊明・灰野敬二・川仁宏・向井千恵・三上寛/浦邊雅祥DUO。

フリー・アヴァンギャルド・ジャズのファンならば必ず知っているはずの名前もあり、馴染のない名前もあった。しかしこうして見ると迫力のある面子だ。吉沢元治、井上敬三、金大煥、デレク・ベイリーは既に鬼籍に入っている。何しろ初回の吉沢元治は1992年、もう17年も前ということになる。

写真は秀逸でかなりツボを突いてくる。おそらくは絞り開放に近い設定での被写界深度が浅いポートレートが良い。レンズをキッと見つめるデレク・ベイリー、不敵にニヤリと笑うハン・ベニンク、意外とやさしい表情のペーター・ブロッツマンなど最高である。


デレク・ベイリー

また、<動き>や<位置>を強く印象付けるもうひとつの写真が愉快だ。畳の部屋に座る井上敬三、暗闇でピンボケ、こちらを見つめるバール・フィリップス(表紙の写真)、歌舞伎町コマ劇場近くの立ち食い蕎麦屋前に佇むチャールズ・ゲイル。このゲイルは、近くのナルシスでソロ演奏をした前後に撮られたもので、幸運にも私もその場に居合わせた。狭いナルシスがぎゅうぎゅう詰めになり、前の人の椅子で膝が痛かったことを覚えている。


井上敬三

カメラとレンズは何を使ったのかまったく書いていない。だが、たとえば室内のジョージ・ルイスを撮った写真なんかを見ると、光の滲み、焦点があった場所以外の独特なボケ、これはライカのズミルックス35mmF1.4ではないか、などと思ってしまう。

インタビューからは、デレク・ベイリーなど自らの方法論そのものをアウラとして身に纏い、高い知性を感じさせられる人が多いのが印象的だ。

デレク・ベイリー(抜粋)
「でも、語るということはちょっとトリッキーだ。重要で無いことを話すのは易しいけれど、重要なことを話すのはとても難しい。今、君は重要なことは何だと尋ねるだろうね。だから、それに答えるのはとても難しい。特にインタビューなどでは簡単にフィクション化出来るわけで、自分のやっていることを素敵な話に巧くまとめてしまうことが出来る。それが必ずしも真実では無くてもね。」

付属のCDでも、大友良英の音を聴いた直後に登場するデレク・ベイリーの手癖は素晴らしく、その瞬間は確実に感動する。