科学映像館が、上海環球金融中心(World Trade Center)に設置されたエレベーターについての映像、『上海の雲の上へ』(2009年、日立)を配信している(>> リンク)。エレベーター・メーカーとしてのPR映像ながら面白い。このビルには仕事で何度か足を運んだことがあるのだが、展望台にはのぼっていない。
ついこの間まで世界一の高さだと宣伝されていたが、最近、ドバイのビルに抜かれている。調べてみると、中国と中東とのレースという印象だ(>> リンク)。高さ競争に何の意味があるのかわからないが、国威の発揚だとしたら実に下らないことだ。もっとも、上海環球金融中心は森ビルが計画・開発している。
映像によると、分速480メートル、輸送力を高めるためにエレベーターの箱が2階建て(ダブルデッキ方式)となっている。揺れの制御もウリのようで、エレベーターの床に水を入れたグラスを置いたりしている。建設当時、朝夕には通勤の人びとがエレベーター待ちの列を作るに違いないなどという話があったが、行って見た限りではそうでもなさそうだ。
ただ、昇降の速さやダブルデッキ方式については特に目新しいものでもないようだ。田辺仁夫『「エレベーター」そのあくなき非めくるめき現象の追求。』(所収『「めくるめき」の芸術工学』、工作舎、1998年)によれば、1889年、パリ万博に登場したエッフェル塔に設置されたエレベーターは分速60メートルであった。100年が経ち、1993年に竣工した横浜ランドマークタワーのエレベーターは分速750メートルにまで達している。

エッフェル塔のエレベーター(田辺仁夫『「エレベーター」そのあくなき非めくるめき現象の追求。』より)
もちろん速さが重要なのではなく、この本によると、エレベーターは止めるときの制御が重要で、しかも難しいという。エレベーターはロープを介しているので必ず伸び縮みが生じ、それを巻き上げ機のモーターの回転数で制御する(どうやって?)。その結果、ホールの床とかご室の床の誤差をプラスマイナス10ミリ以内にすることが目標。確かに分速500メートルであれば時速30キロ、これをぴたりと止めるわけだから難しいはずだ。今ではエレベーターというとシンドラー社の事故のことを思い出してしまうが、本来はハイテク機器である。ティム・バートン『チャーリーとチョコレート工場』に登場するボタンだらけのエレベーターだってそうである。
上海環球金融中心は当初の計画から大きく変更された点がある。タワー頂部には長方形の開口部があり、風荷重の軽減という目的で空けられたというが、計画段階では長方形ではなく丸い穴だった。1998年に東京都現代美術館で開催された「建築の20世紀」の図録を見ると、確かに丸い。「日の丸を思わせる」ということが変更の理由だったと噂されている(誰もがそう言っているので、多分本当だろう)。まあ、話のネタにしかならない。

当初の計画(『建築の20世紀 終わりから始まりへ』より)
ところで、これを書いていると、上海の芸術家、蔡玉龍さんから新作展の案内メールが届いた。自由奔放な書、書と絵との融合だけでなく、今度は書が壁や天井へと這い出している!この人は何だかどんどん凄い領域を開拓しているようだ。上海に行く機会があれば、また覗いてみたいところだ。



蔡玉龍さん(2009年) PENTAX MX、77mmF1.8 Limited、Tri-X (+2)、イルフォードMG IV RC、2号
●参照
○蔡玉龍(ツァイ・ユーロン)の「狂草」@上海莫干山路・M50
○蔡玉龍(ツァイ・ユーロン)の新作「气?/The Activity of Vitality」@上海莫干山路・M50
○上海の莫干山路・M50(上)
○上海の莫干山路・M50(中)
○上海の夜と朝
○上海、77mm
○藤井省三『現代中国文化探検―四つの都市の物語―』
○伴野朗『上海伝説』、『中国歴史散歩』
○伴野朗『上海遥かなり』 汪兆銘、天安門事件
○『チャイナ・ガールの1世紀』 流行と社会とのシンクロ
○上海の麺と小籠包(とリニア)
○陸元敏『上海人』
●科学映像館のおすすめ映像
○『沖縄久高島のイザイホー(第一部、第二部)』(1978年の最後のイザイホー)
○『科学の眼 ニコン』(坩堝法によるレンズ製造、ウルトラマイクロニッコール)
○『昭和初期 9.5ミリ映画』(8ミリ以前の小型映画)
○『石垣島川平のマユンガナシ』、『ビール誕生』
○ザーラ・イマーエワ『子どもの物語にあらず』(チェチェン)
○『たたら吹き』、『鋳物の技術―キュポラ熔解―』(製鉄)
○熱帯林の映像(着生植物やマングローブなど)
○川本博康『東京のカワウ 不忍池のコロニー』(カワウ)
○『花ひらく日本万国博』(大阪万博)
○アカテガニの生態を描いた短編『カニの誕生』
○『かえるの話』(ヒキガエル、アカガエル、モリアオガエル)
○『アリの世界』と『地蜂』
○『潮だまりの生物』(岩礁の観察)