Sightsong

自縄自縛日記

劉國昌『弾道 Ballistic』 台湾・三一九槍撃事件

2010-05-30 12:04:27 | 中国・台湾

北京で買ってきたDVD、劉國昌『弾道 Ballistic』(2008年)を観る。中国ではこの4月から上映されているらしいが、一方でDVDが20元くらいとは何ともユルい。

台湾の総統選挙。劣勢の陣営は、有力者の息子を逮捕し、保釈してほしいなら力を貸せと迫る。雇われた殺し屋は、殺傷力のない銃弾を、選挙運動中の雇い主、つまり黒幕の総統候補めがけて撃つ。ところが横の妻に命中し、総統候補は病院で自分の身体に弾痕を付ける。この、相手に対するネガティブ・キャンペーンが奏功して、劣勢を跳ね返して選挙に勝利する。警察は、上からの圧力により、別の犯人を仕立て上げ、事件を終わらせようとする。しかし、捜査官は、逃げ出した偽・犯人を追い、香港に渡る。そこに偽・犯人を消そうとする殺し屋も現れる。偽・犯人とともに真実を公表しようとする捜査官だったが、捜査官の上役が総統側の圧力により寝返る。偽・犯人は消され、自殺として処理される。そして、真相を知る者は次々に葬られていく。数年後、総統に退陣を迫る人々が街中を埋め尽くす。

捜査官を演じたジョセフ・チャンは悪くないが、何といってもその上役のサイモン・ヤム。息子の病気をだしに圧力をかけられての苦しみ、寝返った直後の放心、悪を決め込んだ迫力、いつもながら味があって良い。

犯人は最初からわかっているわけで、見どころはジョセフ・チャンの熱い正義感、サイモン・ヤムの心理描写、それから改造弾を製造するディテール描写、台湾海峡を舟で渡るときの追い詰められた雰囲気、といったところだ。

台湾でも香港でも爆竹が打ち鳴らされる中での銃撃が行われるシーンはなかなかだが、ジョニー・トーの洗礼を受けた眼で見れば、アクションの工夫はそこそこの水準に思える。ただ、偽・犯人の娘の働くバーに捜査官が辿りついたところ、偽・犯人も、殺し屋も集まってしまうシーンは抜群だった。

ストーリーは、2004年に陳水扁・前総統が再選された際の「三一九槍撃事件」(>> リンク)をもとにしている。映画と同様に、事件が陳水扁サイドの自作自演であったとする報告も出されているという。そういえば、黒幕の総統候補役は妙に陳水扁に似ている。


北京798芸術区再訪 徐勇ってあの徐勇か

2010-05-30 00:16:11 | 中国・台湾

北京で少しできた時間を使って、宿泊先の近くの「Soka Art Center」まで歩いた。最初に訪れたときは、極寒のなか右往左往したものだったが、もう迷わない・・・・・・はずだったが、着いてみると、中身がデザイン学校に化けていた。受付の人に訊ねてみても、もとあった画廊がどこに移転したかなんて知るわけがない。

脱力して、タクシーに乗り、「北京798芸術区」に向かった。だだっ広い芸術村である。方向感覚を思い出しながら彷徨う、と、いきなり「Soka Art Center」を発見した。ちょっと前に移転したということだった。

■ 「雲端」 @Soka Art Center (>> リンク

入るといきなり方力鈞(ファン・リジュン)の大きな作品。奈良美智による眼がぐるぐるした女の子、草間弥生による気持ち悪い南瓜、蔡國強(ツァイ・グオチャン)による焼け焦げた手すき紙、艾未未(アイ・ウェイウェイ)による妙な立体作品など、ビッグネーム揃いだ。特に奈良、蔡が素晴らしい。辿りついて幸運だった。


方と草間

■ 「経典不朽」 @名・潮国際芸術館 (>> リンク

油彩による中国リアリズムと書き添えてある。過去からの伝統的な手法を用いて現代のテーマを描くといったモチーフで、つまらないかなと思ったのだが、毛以?(マオ・イガン)による裸婦作品(>> リンク)が鮮烈だった。

■ 「INCARNATIONS II /化身(弐)」 @Galerie Paris-Beijing

4人の写真家によるパフォーマンス・アート。タイトルの通り、主体が作品中に入り込んでいる。身体にペイントを施し、カメレオンのように商品棚と一体化するようなものは冗談としか受け止められなかったが、面白いものもあった。朱冥(ツー・ミン)の作品。街中、男が口からホースかエクトプラズムのようなものを出している。わけがわからず笑ってしまった。

?鑫(カン・シン)の一連の作品は、裸の人たちが風景内でデザイン化しているもの。ロバート・スミッソンやリチャード・ロングらのランド・アートがグロテスクになったようだ。それらに否応なく付きまとう「嘘っぽさ」がここでは消え、奇妙な力が残っている。

■ 朱昱「Play Thing」 @長征空間

朱昱(ツー・ユー)は、ウルトラリアルな食器の底や石の作品群を並べていた。何十枚も汚い食器の底を覗きこむとおかしな心地になる。

■ Olafur Eliasson & Ma Yansong 「Feelings are facts」 @UCCA (>> リンク

赤や青のガスが充満した部屋に入るという作品。パンフにコンセプトがいろいろ書いてあるが、とりあえずは楽しめばよいのだ。このような状況では、みんなデジカメを取り出す。

隣の部屋は繊維くずだらけ(作者は誰だろう)。みんな土足で入っていく。

■ 楊延康 @798 Photography (>> リンク

この写真家、楊延康(ヤン・ヤンカン)の作品ははじめて観た。銀塩モノクロ、僧たちの生活が捉えられている。ちょっと巧すぎて、カルティエ=ブレッソンみたいだ。もっと観たいと思い、中国でのカトリック信者たちを撮った写真集を入手した。今回の一番の発見だ。

■ 徐勇「再看/See Again」 @798 Gallery

徐勇(シュー・ヨン)は、北京の失われていく胡同をモノクロで撮ったことで有名な写真家だ。日本でも写真集が発行されている。

巨大な工場跡の空間に足を踏み入れても、それらしき作品はない。奥の方にあるのかなと歩いても何もない。そうではなく、目の前にある、全く異なる作風のものが、徐勇の新作なのだった。これには驚いた。作品によっては、これは樹木、これは戦車とかろうじて判るものの、概ね何が写っているのかわからないほどアウトフォーカスである。何の感銘もなく、ただ茫然とする。

テーブルに置いてある徐勇の作品集をいくつか開いてみた。もちろん胡同もある。しかし、以前に同じ「798 Space」で観た、裸の女性とテキストとの組み合わせによる作品群もある。そのとき、キュレイターの名前を写真家と勘違いしていたことに、ようやく気が付いた。悪くはなかったが、これだけ変貌を続ければ作家性もなにもあったものではない。

かつて中国で徐勇と交流した北井一夫さんから、「彼はビジネスもうまくて、結構偉くなっているらしい」と聞いたことがある。そのときには何のことかわからなかったが・・・・・・。


以前の展示「解決方策」

他にもいろいろと覗き、足が棒のようになった。ビールとサンドイッチで一休みして帰った。 

●中国アート
北京の「今日美術館」で呂順、「Red Gate Gallery」で蒋巍涛、?平
王利豊(ワン・リーフェン)@北京Red Gate Gallery
周吉榮(ツォウ・ジーロン)@北京Red Gate Gallery
馮効草(フェン・ジンカオ)、徐勇(シュー・ヨン)、梁衛洲(リョウ・ウェイツォウ)、ロバート・ファン・デア・ヒルスト(Robert van der Hilst)、王子(ワン・ツィー)@北京798芸術区
孫紅賓(サン・ホンビン)、任哲(レン・ツェ)、老孟(ラオ・メン)、亜牛(アニウ)、ルー・シャンニ、張連喜(ツァン・リャンシ)、蒋巍涛(ジャン・ウェイタオ)@北京798芸術区
武漢アート@北京Soka Art Center
解放―温普林中国前衛藝術档案之八〇年代@北京Soka Art Center
蔡玉龍「へちま棚の下で30年」 静かなる過激@上海莫干山路・M50
蔡玉龍(ツァイ・ユーロン)の新作「气?/The Activity of Vitality」@上海莫干山路・M50
上海の莫干山路・M50(上)
上海の莫干山路・M50(中)
蔡玉龍(ツァイ・ユーロン)の「狂草」@上海莫干山路・M50
上海の莫干山路・M50のOFOTO Gallery(邵文?、?楚、矯健、田野)
袁侃(カン・ユアン)、孫驥(スン・ジ)、陸軍(ルー・ジュン)、蔣志(ジャン・ツィ)、クリス・レイニアー、クリストファー・テイラー@上海莫干山路・M50
Attasit Pokpong、邱?賢(キュウ・シェンシャン)、鐡哥們、杜賽勁(ドゥ・サイジン)、仙庭宣之、高幹雄、田野(ティアン・イェ)、何欣(ヘ・シン)、郭昊(グォ・ハォ)@上海莫干山路・M50
蔡玉龍(ツァイ・ユーロン)の「狂草」@上海莫干山路・M50
蔡玉龍(ツァイ・ユーロン)の新作「气?/The Activity of Vitality」@上海莫干山路・M50
燃えるワビサビ 「時光 - 蔡國強と資生堂」展@銀座資生堂ギャラリー
『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』(蔡國強)