すべて、ライカM3、Elmarit 90mmF2.8、Tri-X(+2)、イルフォードMG IV RC、3号
※以下再掲
齋藤徹「徹の部屋 VOL.2」(Space&cafeポレポレ坐、2009年5月29日)
「ひつじ年生まれ」のベーシスト3人(瀬尾高志、内山和重、齋藤徹)が、ベースだけでライヴを行うという変な試み。聴客は何十人もいた。
第一部は、タンゴ、それから「チューニングによる連作」。あえて演奏家としての技術を不自由にするため、3人ともベースを床に寝かせ、弓でゆっくりと演奏を始める。緊張感というよりむしろアンビエントな感じであり、聴いているこちらは呼吸困難にはならない。やがてゆるりと立ち上がり、ベースを弾き始める。
第二部は、まず「for ZAI」の一部を、「蛙の合唱」バージョンとして演奏した。ぎざぎざのおもちゃで弦を擦り、ついでに蛙の口真似をしてみたりするのを観て、会場からは笑いが漏れる。次に「オンバク・ヒタム桜鯛」。「ビッキ柳」という樹の枝の樹皮を剥いて白くなった棒を使い、べよんべよんと弦を叩く。
ここでのコンセプトは「オンバク・ヒタム」(黒潮)だということで、音楽の位置は東南アジアから琉球弧、さらに韓国、日本海へとつながっていく。この日配られた紙には、日本海を上に、日本を下にした地図とともに「「日本海」は大きな「内海」だった」という言葉が添えられている。確かにこれだけで随分とものの見方が異なってくる。演奏後の話でも、齋藤徹さんがこのあたりのリンケージをずっと気にしてきているということだった。伊波普猷の沖縄学における琉球とアイヌとのリンク、伊波に触発された柳田國男の「海上の道」、島尾敏雄の「ヤポネシア」など、想像世界が拡がりそうだ。
演奏は琉球弧へと進む。琉球音階のようなメロディーもそうだが、面白かったのは指笛。なんと、薄い板で弦を叩き、指笛のような音を出している!
さらに韓国の大きな銅鑼を持ち出す。この繊細で割れたような音を聴いたあとすぐに、ベースの弦の音を聴くと、とても新鮮に思えた。
今後、大勢の筝との共演を行い、さらにこのコントラバストリオを合体させたうえで、田中泯の踊りを加え、「オンバク・ヒタム」を完成させていくとのことであり、かなり刺激的なプロジェクトになりそうな予感。
・・・などと、ライヴを観たあとに書いていたが、その後この試みに足を運ぶことができないまま、もう7回が終わっている。そろそろテツさんのライヴに行きたいものだと思っていると、しばらくヨーロッパ・ツアーだということ。齋藤徹+今井和雄『Orbit Zero』がCDという形になるので、まずはこれを聴くのが楽しみなのだ。
●参照
○ユーラシアン・エコーズ、金石出
○齋藤徹『パナリ』
○往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』
○ミッシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm
○ジョゼフ・ジャーマン『ポエム・ソング』