Sightsong

自縄自縛日記

パット・アダチ『Asahi: A Legend in Baseball』、テッド・Y・フルモト『バンクーバー朝日軍』

2010-05-31 00:13:53 | スポーツ

過日テレビを観ていると、カナダ・バンクーバーにおいて戦前に活躍した野球チーム、バンクーバー朝日軍の特集が組まれていた。かなりの実力があったチームで、日系移民のみならず人種を超えて人気があったという。思い出した、このチームの本を持っていた。パット・アダチ『Asahi: A Legend in Baseball』(1992年)だ。何年か前に、古本屋のワゴンの中で見つけ、500円くらいで買ったのではないだろうか。パラパラと頁をめくって楽しんでいたものの、そのまま放っていた。

当時の集合写真も、スナップも、寄せ書きも、新聞の切り抜きも、OBたちが寄せた文章もある。日系移民だから日本語、英語が混じっている。よく見ると、その中に登場する人たちの何人もの万年筆による署名がある。おそらくはOBに近い人が持っていて、みんなに書いてもらったものだろう。

ここには、日系移民向けの日本語新聞の切り抜きがいくつか掲載されている。例えば、カナダ人チーム、ホワイトロックとの試合結果について。

「(略)其間に北川又二塁へ走り何のことはない球が人間より遅い為め朝日は安打なくして三、二塁を奪ひ得たのである、次にバツトを握つたは中村兄二回目のバントが成功して山村本塁に突進、ホ軍は大狼狽を始めて中村を一塁に生かし二塁をお留守にして盗まれて了ふ、・・・・・・」

といった具合である。まるでラジオの名調子、いまの野球の記事もこんなふうであったならもっと愉しいだろう。

この野球チームについてもっと知りたくなって、テッド・Y・フルモト『バンクーバー朝日軍』(2009年、東峰書房)を読んでみた。著者は、朝日軍のエースピッチャー、テディ・フルモトの息子である。

父親をはじめ、大勢の思い出を引き受けて、講談のようにチームの推移を描きだしていて、とても面白い。19世紀後半、カナダに初めての日系移民となる人が密入国した。彼は日本式の投げ網で鮭を獲って財をなし、「銀鮭王」、「塩鮭王」と呼ばれるようになる。紅鮭以外は現地で食べないため、キングサーモンや銀鮭を缶詰にして輸出したのだった。成功した者が家族を呼び寄せ、次第にバンクーバーには日系移民が増えていった。日本人排斥の動きがあったものの、ここで結成されたバンクーバー朝日軍という野球チームは、人種間の垣根を取り払う力を持っていた。しかし、第二次世界大戦により、日系移民は強制収容され、強制移住させられる。チームの突然の終焉であった。

本書を読んでいて高揚する気分は、まさにWBCのときと同じものだ。もちろん、このナショナリズムには良い側面も悪い側面もある。

去年の春、WBCが終わり、「来年の春、われわれはWBCの不在に気付いて、寂しさと物足りなさを覚えるのではないか。」(芝山幹郎)という言葉があった。確かにそれはそうだが、米大リーグも日本プロ野球も依然として面白い。韓国や台湾やメキシコやベネズエラやキューバでの国内リーグも観ることができれば、さらに世界が広がって愉しいに違いない。

今年の開幕時、『Number』2010/4/15号を読みながら、さてどうなるかなと思っていた。今のところ、ジャイアンツの東野が自分としてはピカイチだ。渾身の球を投げ込み、打たれても、抑えても、ボールと判定されても、愉しそうに悔しがったり会心の表情を見せたりするのが良いのだ。