Sightsong

自縄自縛日記

チャールス・タイラー

2010-06-06 01:25:50 | アヴァンギャルド・ジャズ

チャールス・タイラーは、アルバート・アイラーと共演していたり、ESPレーベルからリーダー作を出していたりするサックス奏者だが、スティーヴ・レイシーと共演した盤があるとは知らなかった。『One Fell Swoop』(SILKHEART、1986年)である。

レイシーは勿論ソプラノサックス1本で勝負、タイラーはアルトサックスかバリトンサックスで絡んでいる。なおベースはジャンジャック・アベヌル、ドラムスはオリヴァー・ジョンソンと、良いメンバーを揃えている。レイシーが楽器の調整で遅刻したときに録られた、タイラーのアルトサックスだけでの演奏もある。

どうしてもレイシーと比べてしまうと、タイラーの演奏の格は明らかに落ちる。タイラーのソロは同じ迷路をうろうろしているという印象であり、なかなか飛翔できない。褒めるならば、ミニマリズム、構造的で内省的な音色という特徴だ。アルトサックスではちまちましていて、自由なレイシーとは合わない。故なきことだが、バリトンサックスのほうが系が閉じておらず、絡みには良いかもしれない。音のピッチを柔軟に変えることができるレイシーの素晴らしさはいつも通りだ。奇妙なオリジナル曲も面白いが、十八番、セロニアス・モンク作曲の「13日の金曜日」が良い。

タイラーのリーダー作は、『Eastern Man Alone』(ESP、1967年)を持っている。サイケデリックなジャケットや、「リロイ」(言うまでもなくリロイ・ジョーンズ、いまのアミリ・バラカに捧げられている)という曲に時代が反映されている。ただし演奏は一過性のものではなく、タイラーの個性が出ている。チェロとベース2本のみをバックにアルトサックスを吹くという編成は、この自らに閉じこもった世界を表現するのには適していたかもしれない。

タイラーは1992年に亡くなっている。その年に共演を予定していた面々が吹きこんだ盤がある。デニス・チャールズ+レミ・シャルマッソン+ベルナルド・サンタクルス『A Scream for Charles Tyler』(BLED REGARD、1992年)である。ギター、ベース、ドラムスのトリオであり、曲により、それぞれのソロ演奏が収められている。ドラムスのデニス・チャールズ以外は他では聴いたことがない。

最初はタイラーに向けた追悼文であり、チャールズがマイクに向かって、「Bud, bloom, blossom」から始まり、「Charles is at rest.」で締めくくっている。面白いのは、演奏がタイラーのテイストとなっていることだ。但し書きに「The music of the album has been totally improvised.」と書かれていることからも、タイラーの作曲によりそうなったわけではない。ギターもベースも、複雑系のマージンのように、フラクタルのように、妙な構造を作り、発展させては消えていく。タイラーのアルトはさほどの好みでないから、こちらのほうが良いような気さえする。

●参照
『富樫雅彦 スティーヴ・レイシー 高橋悠治』
『Point of Departure』のスティーヴ・レイシー特集
レイシーは最後まで前衛だった
中平穂積『JAZZ GIANTS 1961-2002』におけるレイシーの写真