板橋文夫のソロピアノ2枚組『ダンシング東門』(MIX DYNAMITE、2005年)を見つけた。何しろ、先日久しぶりに彼の激しくも抒情的なピアノを聴いたばかりだ。
セロニアス・モンクの「I Mean You」、高田渡の「生活の柄」、チリのヴィクトル・ハラの「平和に生きる権利」、中村八大の「上を向いて歩こう」、本人の名曲「渡良瀬」「グッドバイ」など、選曲がいちいちツボをついている。
「生活の柄」は、『うちちゅーめー お月さま』では大工哲弘との共演だったが、ここでは、片手でピアニカ、片手でピアノを弾いており、嬉しさがこみあげてくる。
「渡良瀬」は、先日のライヴを思い出す激しさだ。解説を読むと、青森にある店「東門」のオーナーが、「渡良瀬」の演奏中に鍵盤の蓋が落ちそうになったと書いてあって笑った。この前は、黒鍵が文字通り空中を飛んでいったのだ。「渡良瀬」はピアノ破壊曲だった。
そして「グッドバイ」。実は『North Wind』(1998年)という、やはりソロピアノ2枚組におけるこの曲の演奏があまり好きではなかった。テンポが跳ねるようで、どうしても浅川マキが歌っていたイメージと離れてしまっていたのだ。しかしここでは、オリジナルに回帰した演奏だ。マキさんの様子を思い出しながら、しみじみとしてしまう。
確か油井正一のガイドブックに『わたらせ』(DENON、1981年)が紹介してあり、「いままで何台のピアノを壊しただろう」などと書かれていた記憶がある。その『わたらせ』には、「渡良瀬」も、「グッドバイ」も収録されている。このアルバムだけを聴く限りでは、そのような破壊的な印象は希薄である。板橋文夫は、その身体の中に、絶えず情とエネルギーと混沌とを蓄積し続けているということになる。
しかし、『わたらせ』は、これはこれで素晴らしく抒情的な演奏で、LPが手に入らず聴きたいと思っていたところ2005年にCDが再発され、すぐに買って感激しながら聴いた作品だ。いまあらためて聴き惚れてしまった。