シンガポールに向かう機内で、降旗康男『あなたへ』(2012年)を観る。
妻に先立たれた刑務官(高倉健)。残された手紙に従って、富山から、妻の故郷である長崎県まで自動車での旅に出る。
映画のつくりとしては、さほど凝ったものではない。説明過多なところもあり、もう少しスマートに作ってほしかった。
しかし、何と言っても憧れの健さんである。ひとつひとつの立ち居振舞がグッとくる。こんな人になりたいなどと昔から妄想していたが、所詮はキャラ違い、永遠にムリだろうね。
関門海峡を見おろす下関の火の山で、ビートたけし演じる車上荒らしの男と立ち話を交わす場面がある。わたしの故郷の近く、とても懐かしい。男は、「旅と放浪の違い」について語る。目的があるのが旅で、そうでないのが放浪だ、と。また、帰るべき場所があるのが旅で、ないのが放浪だ、と。でも、帰る場所なんて、また新しく作ればいいじゃないですか、と。思わず涙腺がゆるんでしまう。
この映画は、大滝秀治の遺作にもなった。彼の存在感が、もうただごとでない。健さんに加え、大滝秀治だけでも、映画を観る価値がある。やはり凄い俳優だったのだな。