所用で福岡に行ったついでに、福岡アジア美術館で『民衆/美術―版画と社会運動』を観た。
キム・ボンジュンの作品
韓国において、版画という手段で政治運動・社会運動に働きかけた4人の芸術家の作品群である。
■ 閔晶基(ミン・ジョンギ)
森を背景にした裸の女性、その肢体や壁に、光州事件の写真が映しだされるという奇妙なリトグラフ。あえて若い女性の裸体を見せることで、ヴァルネラブルな人間と暴力との対比をアピールしているようだ。
■ 金鳳駿(キム・ボンジュン)
80年代の民主化運動のために活動したが、その根っコは民衆や農民の共同体社会という理想にあった。現在では、さらにそのヴィジョンをおしすすめた生活をしているという。芸術も根っコである。
■ 洪成潭(ホン・ソンダム)
光州事件というあからさまな国家暴力の姿と、それに対する抵抗の姿とを、数多くの版画によって提示している。金鳳駿が政治よりも人間生活のあり方にシフトしたのに対して、洪成潭のスピリットは権力との直接対決だ。それだけに、ただならぬ迫力を持つ。
ところで、この展覧会のタイトルに「/」を付しているのは、運動と密着した芸術を、民衆芸術と一緒にするわけにはいかないという理由だという。それは詭弁ではないか。政治や実社会から距離を置いたものを芸術的な昇華とみなし、そうでないものを芸術ではなく手段とみなすような考え方が背後にあるのではないか。だとすれば、それは間違っている。
沖縄の佐喜間美術館で開かれた展示のカタログを入手した
■ 李允�奮(イ・ユニョプ)
韓国の米軍基地や産業進出などに対するプロテストだが、悲惨な主題であっても、なぜかユーモラス。
たとえば、ピョンテクでの基地拡大により立ち退きを迫られたテチュリ住民たちの運動。無機質で暴力的なヘリが存在する。そこにご飯を持って現れた小さな女性の姿は、やたらに可笑しい。もちろん視線は、人間に注がれる。愉快で吹きだしてしまった。
これも佐喜間美術館のカタログ
●参照
○金時鐘『境界の詩 猪飼野詩集/光州詩片』
○川本博康『今こそ自由を!金大中氏らを救おう』(金大中事件、光州事件)
○四方田犬彦『ソウルの風景』(光州事件)