新宿武蔵野館にて、モフセン・マフマルバフ『独裁者と小さな孫』(2014年)を観る。
どこかの国。独裁政治の終焉など夢にも想像しない大統領の老人と、我儘な一族。かれらは突然の民主革命でその地位を奪われる。妻や娘を外国に逃亡させるが、大統領と、かれになつく孫だけは国に残る。甘い見通しだった。ふたりは身をやつし、逃亡を続ける。耳に入ってくる声は、大統領への憎しみばかり。それすら知らないで、のうのうと権力の座にあったのだった。やがて反乱兵たちに見つかり、最期が訪れる。だが、暴力を持って報復することは誤りだと叫ぶ男が割って入り、ではどうすればよいのかと問われ、男が発した答えとは。
寓話的な政治物語である。暴力の連鎖を断つために、どのような倫理を引き出し、現実的な解を見出すか。マフマルバフにより最後に提示される解はあまりにも曖昧だが、だからこそ示唆的で、こちらの思索を促してやまないものではないか。
●参照
モフセン・マフマルバフ『カンダハール』(2001年)
モフセン・マフマルバフ『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(2001年)