アレックス・ギブニー『ミスター・ダイナマイト ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』(2014年)を観る。
いや面白い面白い。冗談抜きで面白く興奮する。JBという不世出の存在が、JBという音楽・ファンクという音楽を創り、時代を創り、時代に歓迎され、しかしその体内は複雑骨折していたことが実感できるドキュメンタリーである。
同時代を走った者の証言は実に多岐にわたる。まったく違うタイプのミック・ジャガーは心底可笑しそうに当時を振り返る。しかし、かれのバンドで働いたメイシオ・パーカーやピー・ウィー・エリスといったサックス奏者、ジョン・ジャボ・スタークスらのドラマー、歌手マーサ・ハイ、JBズとの金銭トラブルにより後任として呼ばれたベースのブーツィー・コリンズらが、いかにJBが偉大で革命的であったかを語る一方で、人を信じられず、おカネに貪欲であったかれへの嫌悪感も隠そうとしない。JBは余りある才能を持ちフル活用しえた者であったために、そうでない人びとに十分には共感できなかったのかもしれない。黒人の公民権運動への関わりも、明快ではない。
それにしても、JBのパフォーマンスをとらえた映像は圧倒的だ。短いフレーズを延々と繰り返し、観客の心をつかむ姿など笑ってしまうほかはない。同時代と後世の音楽家たちに大きな影響を与えたことも納得できるというものだ。プリンスやパブリック・エナミーだけではない。ゴスペル、R&B、ソウルからファンクへ、その流れにはジャズも絡んでいた。映像には「The Sidewinder」の演奏場面も出てくる。そしてJBを語る中心人物のひとりはなんとジャズベース奏者のクリスチャン・マクブライド。以前に吉田野乃子さんのコラムにおいて、ブルックリンの「Don Pedro's」という小さな音楽バーにお忍びでマクブライドが現れ、ファンクを中心としたDJをやったとの目撃情報があった。わたしもクリス・ピッツィオコスを観に一度だけ行ったことがあるが、失礼ながらバー裏のステージはまったく綺麗とは言えない小さいところである。いや、ビッグなマクブライドが・・・、本当にファンクが好きなんだろうね。その偏愛を爆発させたアルバムでも作らないのかな。
JBはステージ上でも暴君であったようだ。バンドメンバーは、一時たりともJBの挙動から目を離すことができない。予想できない展開を指示し、突然無茶ぶりしたりもするからだ(対応できないと罰金を払わされたという。おカネは禄に払わないくせに)。先日、サン・ラ・アーケストラのステージにおいて(Worldwide Session 2016)、バンドリーダーのマーシャル・アレンがアナーキーな指示を出し、メンバーが慌てふためいてソロを取る姿を目撃できてとても愉快だったのだが、サン・ラとJBとのつながりはどのようなものだったのだろう。どちらもゴージャスでプロフェッショナルなショーを魅せる人だったわけだし。