J・G・バラード『ヴァーミリオン・サンズ』(ハヤカワ文庫、原著1956-70年)を読む。
1956年のバラードの初小説「プリマ・ベラドンナ」が収録された短編集である。バラードを読むのは久しぶりなのだが、かれの作品は、その原点から目が眩むような妖しく禁忌的な光を放っていたことがよくわかる。
ヴァーミリオン・サンズという、架空の郊外、砂漠の街。そこには世を儚んだような者、富豪、女優、詩人らが集まってくる。視えるものは、夢の残滓であり、ゴージャスな狂気であり、そして何よりも心象風景が歪んで可視化された世界である。このイメージは何を突き抜けているのかわからぬほど突き抜けている。
「コーラルDの雲の彫刻師」は、華麗なようでいて、底知れないコンプレックスが生の傷口を見せつけるようだ。「スターズのスタジオ5号」は、IT時代の詩というものを見事に描いている。「ヴィーナスはほほえむ」は、鉄という無機物がどくんどくんと脈打つ気色悪さを発散しているし、「ステラヴィスタの千の夢」は、さらに樹脂と住居というものが他人のはかりしれない脳と化す。
覚醒したまま視る悪夢か。バラードは狂った知性だったとしか思えない。
●参照
J・G・バラード自伝『人生の奇跡』(2008年)
J・G・バラード『楽園への疾走』(1994年)