Sightsong

自縄自縛日記

スティーヴ・スウェル『Soul Travelers』

2016-06-26 22:53:17 | アヴァンギャルド・ジャズ

スティーヴ・スウェル『Soul Travelers』(Rogueart、2016年)を聴く。LPである。

Steve Swell (tb)
Jemeel Moondoc (as)
Dave Burrell (p)
William Parker (b)
Gerald Cleaver (ds)

どうだと言わんばかりのメンバー。とはいえ、いまも、主役スティーヴ・スウェルのトロンボーンがどんなものか心に落ちてこないのではあるけれど。

(わたしに)キャラがわからない主役以外、それぞれが個性を発揮していて嬉しい。ジャミール・ムーンドックのアルトは微妙にずれた音色で、素朴とも思えるように吹いていて、そのにおいがいい。御大ウィリアム・パーカーのベースはとても重いくせに鈍重さなどまったくない。同じ音を繰り返して、おもむろに満を持したかのように移動しはじめるところなど、ぞわぞわするような快感を覚える。ジェラルド・クリーヴァーのシンバルを効果的に使ったスピルアウトぶりもいい。デイヴ・バレルは、ピアノの一音一音を積み重ね、サウンドのなかでの和音の響きを確かめていくようなプレイを行っていたかと思えば、堤が決壊してフレーズが轟轟と流れはじめる。

●参照
ヨニ・クレッツマー『Five』、+アジェミアン+シェイ『Until Your Throat Is Dry』(JazzTokyo)(2015, 16年)(スティーヴ・スウェル参加)


いしいひさいち『現代思想の遭難者たち』

2016-06-26 21:32:01 | 思想・文学

いしいひさいち『現代思想の遭難者たち』(講談社学術文庫、原著2002/06年)を読む。

この奇書は、かつて講談社から出された「現代思想の冒険者たち」シリーズ(桜井哲夫『フーコー 知と権力』など)の月報に連載された作品をもとにしている。わたしもこのシリーズの何冊かは読んで、ついでに月報も楽しんだし、それが集められた単行本(2002年版)も大事に持っている。ただ迂闊なことに、2006年に増補版に出されたことを知らなかった。本書の底本になったものは2006年版のようなので、あらためて買った。

難点といえば、文庫だから字が小さすぎることか。いしいひさいちは敢えてごにゃごにゃとセリフを書き込むこともあって、ちょっと読みづらい。

それにしても、本当に面白く、ときどき引きつって笑いだしそうになる。何しろ、思想家たちがみんなどうしようもない頑固な変人に変身してしまっているのだ(実際にそうでもあったに違いないのだが)。

たとえば、ニーチェが「つくる会」の教科書採択を審査する教育委員会の委員になっている(もちろん、ここだけでニーチェ研究の西尾幹二氏なわけで爆笑する)。それで賛否を問われ、ニーチェ先生は「この『つくる会』の言動については昔いじめられた日教組に仕返ししてやるが如きルサンチマンを感じてまことに不愉快だ。」と答える。しかし、話はそれでは終わらない。読むと脇腹が痙攣する。

またたとえば、レヴィ=ストロース先生に自作と『知の考古学』との違いを問われたフーコー君は、「たとえば文学作品とはその時代のエピステーメーつまり『知の体系』に作られた作者によって作られた作品に影響されて作られた作者によって作られた作品に作られた作者によって・・・」と滔々と答え、先生を呆れさせる。まさに平行する無数の宇宙を語ろうとするフーコーを表現する、いしいひさいち魔術。松岡正剛氏による「アーカイヴ(<アルシーヴ>)の奥に潜む構造を重視している」との『知の考古学』の書評が180度ずれていることに比べて、百万倍まっとうで可笑しい。

さすが天才・いしいひさいち。


松風鉱一@十条カフェスペース101

2016-06-26 09:21:53 | アヴァンギャルド・ジャズ

十条のカフェスペース101に足を運んだ。ここで数か月にいちどのペースで松風鉱一さんが演奏しており、いつか行かねばと思っていた。

座るなり師匠は旅の話。十条もアジア的で好きな街だそうで、このへんは共感する。わたしも久しぶりに東十条と十条をつなぐ坂道を歩いて、たまらない懐かしさに襲われた(篠原演芸場しか覚えていなかったが)。そして「最近楽器触ってる?」「いやその」。永遠に頭が上がらない(ような気がする)。

Koichi Matsukaze 松風鉱一 (fl, ts, as)
Takayuki Kato 加藤崇之 (g)
Yoshinori Shimizu 清水良憲 (b)
Kiko Domoto 堂本憙告 (ds, vo)(「Blue Velvet」のみヴォーカル)
Chisato Miwa 三輪千里 (vo)(「Love Letter」のみ)

それにしても異常なほどリラックスしたセッションで、十条という場所の力もあって、東南アジアの田舎でまったりしている気分。

松風さんのささくれた音色のサックスはいつも素晴らしい(アルトが一時期可愛い音になっていたが、また変えたのかな)。フルートも吹き始めの幽かなる雰囲気もとても独特。そして加藤崇之さんのギターの宇宙一の異次元ぶり、何をしているのかよくわからないほどのキャラが立ったプレイ。仮にメアリー・ハルヴァーソンと会ったらどう交感しあうだろう。

この日の「w.w.w.」はややゆっくり目で、松風さんの消えて無くなりそうで無くならない疾走音が本当に良かった。(そういえば、山中千尋によるこの曲のカヴァーをいまだちゃんと聴いていなかった。)

加藤さんの面白げなDVDを1枚買って帰った。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●参照
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年)
渋谷毅エッセンシャル・エリントン@新宿ピットイン(2015年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2015年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
5年ぶりの松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2013年)
松風鉱一カルテット@新宿ピットイン(2012年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2008年)
松風鉱一カルテット、ズミクロン50mm/f2(2007年)
松風鉱一『Good Nature』(1981年)
カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ
森山威男『SMILE』、『Live at LOVELY』 
反対側の新宿ピットイン
くにおんジャズ、鳥飼否宇『密林』