Sightsong

自縄自縛日記

フローリアン・ヴァルター+照内央晴@なってるハウス

2019-07-24 01:11:05 | アヴァンギャルド・ジャズ

入谷のなってるハウス(2019/7/23)。

Florian Walter (as)
Hisaharu Teruuchi 照内央晴 (p)

フローリアン・ヴァルターが2017年に初来日したとき以来の再演である(昨年はある事情で共演がなかった)。 

最初はフローリアンのソロからはじまり、バルブのような効果を使いさまざまな音を開陳する。しばらくして照内さんがピアノに座り、静かに音を選んで積み重ねはじめた。ここで驚いたのは、フローリアンがまるでバップにも思えるフレージングに突入したことだ。かつてジョン・ゾーンがMASADAとして霞が関ビルで演奏したとき、やはりアイデンティティとは異なるであろうバップ的な渾身のソロを吹き、消耗して座り込んでしまったことがあった。フローリアンにとってのジャズは異なるだろうし、常日頃から退屈だと口にしているのではあるけれど、このような使い方もしてみせるのだった。(なおあとで訊くと、やっぱりツッコミがあると思ったと笑いながら、ルディ・マハールのアプローチも参考にしているのだと話した。)

この、いきなりの圧の強いブロウに対して、照内さんも特定の領域でクラスターのようにぶ厚めの音塊で呼応した。やがて和音の響きを聴かせるように移ってゆき、フローリアンはマウスピースを浅くも銜え、ゆらぎ、たっぷりのエアでの世界を創る。ピアノが止まってもアルトがその音世界にはみ出ていった。

休憩時間は古いダンス音楽的なものが流れ、その影響か、セカンドセットになってフローリアンは躁的な繰り返しをはじめた。ピアノが即応し、オルゴールを思わせるような音を散らす。ピアノが音を選び、アルトが風を作る、それによる緊張感がしばらく場を支配した。

フローリアンはパントマイムを思わせるようなばらけた音を出す。それは音と音とが旋律や文脈で有機的につながっておらず、そのためにどのようにピアノが絡むかと観ていたのだが、照内さんは、暗闇の中で模索するように音をひとつひとつ出し、それによって道を作り、さらには太くしていった。アルトはつんのめりそうに加速する。また、マウスピースを外し、エンジンのような音も出す。

ピアノは静かになり、日本的にも思える雰囲気を出しながら、クリップをつなげたものを弦の上に静かに置いて演奏を閉じた。だがプリペアドの良さを感じたのはこちらだけではなかった。照内さんが誘い、再び短い演奏に入った。プリペアドの響きが音を手元に引き寄せるものだとして、アルトもまたそのように吹いた。

照内さんは今回デュオにこだわったわけだが、それゆえの変化と互いの応答がじっくりと感じられる演奏だったということができる。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●フローリアン・ヴァルター
喜多直毅+元井美智子+フローリアン・ヴァルター@松本弦楽器(2019年)
『ボンの劇場の夜―ダンスカンパニー・ボー・コンプレックスとゲスト』@ボンSchauspiel(フローリアン・ヴァルター)(2019年)
Ten meeting vol.2@阿佐ヶ谷天(フローリアン・ヴァルター)(2018年)
フローリアン・ヴァルター+直江実樹+橋本孝之+川島誠@東北沢OTOOTO(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
フローリアン・ヴァルター『Bruit / Botanik』(2016年)
アキム・ツェペツァウアー+フローリアン・ヴァルター『Hell // Bruit』(2015年)

●照内央晴
豊住芳三郎+庄子勝治+照内央晴@山猫軒(2019年)
豊住芳三郎+老丹+照内央晴@アケタの店(2019年)
豊住芳三郎+謝明諺@Candy(2019年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2019年)
吉久昌樹+照内央晴@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2019年)
照内央晴、荻野やすよし、吉久昌樹、小沢あき@なってるハウス(2019年)
照内央晴+方波見智子@なってるハウス(2019年)
クレイグ・ペデルセン+エリザベス・ミラー+吉本裕美子+照内央晴@高円寺グッドマン(2018年)
照内央晴+川島誠@山猫軒(2018年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2018年)
『終わりなき歌 石内矢巳 花詩集III』@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2018年)
Cool Meeting vol.1@cooljojo(2018年)
Wavebender、照内央晴+松本ちはや@なってるハウス(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
ネッド・マックガウエン即興セッション@神保町試聴室(2017年)
照内央晴・松本ちはや《哀しみさえも星となりて》 CD発売記念コンサートツアー Final(JazzTokyo)(2017年)
照内央晴+松本ちはや、VOBトリオ@なってるハウス(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』@船橋きららホール(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』(JazzTokyo)(2016年)
照内央晴「九月に~即興演奏とダンスの夜 茶会記篇」@喫茶茶会記(JazzTokyo)(2016年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)