Sightsong

自縄自縛日記

クリス・ポッター『Circuits』

2019-07-21 23:42:40 | アヴァンギャルド・ジャズ

クリス・ポッター『Circuits』(Edition Records、2017年)を聴く。

Chris Potter (ts, ss, cl, fl, sampler, g, key, perc)
Eric Harland (ds)
James Francies (key)
Linley Marthe (b) 

曲によってドラムスが入ったり抜けたりする、トリオまたはカルテットの編成。

ヒロ・ホンシュクさんが書いているように、クリス・ポッターのテクは完璧かつ余裕があってひたすら圧倒される。確かにホンシュクさんのコラムにおいてポッターがマイケル・ブレッカーからの系譜上にあるということは納得できる。だから人間技とは思えなくてつまらないという意見も多く、それもわかるところではある。しかしいちどナマで観たポッターのプレイは、それが研鑽による人間のプレイだというだけで批判などできようもないものだった。昔はブレッカーが得意でなかったけれど、かれだって同じである。

エリック・ハーランドのドラムスはスタイリッシュでびしびし決めている。またジェームス・フランシーズがなんだかわからないが複雑なことをやっていることだけはわかる(笑)。なるほど、シニカルに視ていないでちゃんと向き合ったほうがよさそう。

●クリス・ポッター
デイヴィッド・ビニーと仲間たち@Nublu(2017年)
クリス・ポッター『The Dreamer is the Dream』(2016年)
『Aziza』(2015年)
クリス・ポッター『Imaginary Cities』(2013年)
ポール・モチアンのトリオ(1979、2009年)
ポール・モチアン『Flight of the Blue Jay』(1996年)


藤原智子『ルイズその旅立ち』

2019-07-21 21:49:56 | 政治

過日、藤原智子『ルイズその旅立ち』(1997年)を再見することができた。公開当時に岩波ホールで観て以来、22年ぶりくらいである。

伊藤ルイは、1923年の関東大震災直後に軍部に殺された大杉栄と伊藤野枝の娘である。その前の名前はルイズだったが、事件後に他の姉妹と同様に改名された。事件のとき甥の橘宗一少年も虐殺された。父親・橘惣三郎は、宗一の墓石に、「大正十二年(一九二三)九月十六日ノ夜大杉栄、野枝ト共ニ犬共ニ虐殺サル」と書いた。

映画ができる前の年に、伊藤ルイは亡くなった。はじめて映画を観たとき、ルイさんの幼馴染が昔の家を訪れて泣き出すセンチメンタルな場面に心を動かされていたわけだけれど、今回再見して、別のふたつの面があらためて強く印象に残った。自分も社会も変わったからかな。

ひとつは人びとの強さ。墓石が政府や警察に見つかるとただごとでは済まない。しかし、近所の人はそれをわかったうえで黙って隠しとおした。ルイさんの幼馴染や姉妹は大人から冷たい扱いを受けたわけだが、子どもであろうとなんであろうと、彼女たちは毅然とした個人であった。これがいまの社会でどれほど成り立つだろうか。

もうひとつ。強いといえばルイさん自身がそうだった。そのルイさんでさえも、しがらみを捨てて自分の信じる社会運動をはじめたのは50歳くらいのころだったという。そして亡くなるまで独立独歩で進み続けた。この遅さと強さにとても勇気づけられてしまう。

●参照
伊藤ルイ『海の歌う日』
亀戸事件と伊勢元酒場
加藤直樹『九月、東京の路上で』
藤田富士男・大和田茂『評伝 平澤計七』
南喜一『ガマの闘争』
田原洋『関東大震災と中国人』
植民地文化学会・フォーラム「内なる植民地(再び)」
山之口貘のドキュメンタリー(沖縄人の被害)
平井玄『彗星的思考』(南貴一)
道岸勝一『ある日』(朝鮮人虐殺の慰霊の写真)
『弁護士 布施辰治』(関東大震災朝鮮人虐殺に弁護士として抵抗)
野村進『コリアン世界の旅』(阪神大震災のときに関東大震災朝鮮人虐殺の恐怖が蘇った)


豊住芳三郎+庄子勝治+照内央晴@山猫軒

2019-07-21 19:22:02 | アヴァンギャルド・ジャズ

埼玉県越生市の山猫軒(2019/7/20)。

Sabu Toyozumi 豊住芳三郎 (ds, 二胡)
Masaharu Showji 庄子勝治 (as, soprillo)
Hisaharu Teruuchi 照内央晴 (p)

午後2時前に越生駅に待ち合わせ、豊住さん、庄子さん、照内さん、それから映像の宮部さん、写真のTomさんと一緒に山猫軒にタクシーで向かう(運転者さんに山猫軒というだけで良いようだ)。森の中をうねうね走って着いた。小雨ではあるけれど、二度目の山猫軒はとても気持ちが良い。中も外も最高に良い。猫ちゃんずは人をまったく恐れずに膝に乗っかってきたりする。

早めに来たのは、豊住さんにインタビューを行うことが目的である。照内さんのはからいであり、確かに聴いておきたいこと満載(午前中にぎりぎりまで予習や準備をしていて遅れそうになった)。いや、ちょっと前に棚上げになった音源のライナーを書いていて、もともと知りたいことがたくさんあったのだ。ジャズの歴史を体現したような人ゆえ数時間で終わるわけもないのだが、それでもいろいろな興味深いお話を聴くことができた。近いうちにまとめるつもりである。

この日シンバルが無いということで、それでもいいかなという感じだったのだが(豊住さんならでは?)、結局、玉響海月さんが持ってきた。ノイズ方面であるから最初から割れている。特製のグラスシャンデリアの蝋燭に火が点けられ、18時すぎから演奏がはじまった。

ファーストセットはデュオを3組。

豊住+庄子。豊住さんはマレットで丸く音を創りはじめ、庄子さんもまた丸く攻める。力強く入り弱めて抜けるようなアルトであり、ふたりのシームレスな感覚にいきなり興奮させられる。

庄子+照内。幽玄に揺れ動くアルトに対しピアノはゆっくり一音ずつ選び、そして和音を重ねるようになるとアルトのヴィブラートが大きくなり音領域がマージナルなほうへと動いてゆく。ピアノが複合的に厚みを出すとアルトが速度を与え、そうするとピアノの速度が増す。静寂が訪れ、ピアノがふたたび音を選んで収束に向かった。

照内+豊住。最初から二胡を弾く豊住さんの音が京劇を思わせる。照内さんはその音を時間のなかに位置付けるように弾いてゆくのだが、やがて、豊住さんが二胡の弦でシンバルも叩き、それも含めた軋みと、ピアノの旋律とが対照的となってきた。金属を削ぎきるようなサウンドに移ったドラムス、さらに複層的になってきたピアノ。ふたりが収束に向かうと、外で虫が鳴いていることに気付かされた。

セカンドセットはトリオ。庄子さんはソプリロというソプラニーノよりも小さいサックスを吹き、その小ささゆえの尖りにより、サウンドに幹を刺し込んでいくような按配に聴こえる。照内さんは擾乱を創り、その中から鍵盤の結晶を見出している。豊住さんはバスドラも連打し、大きな波を絶えず創り出しては放ち続ける。これらによる三者の大きなうねり。

やがて豊住さんはシンバルでの音空間創りにシフトした。豊住さんは決して同じことを続けることはない(このことを抜きにして豊住さんの個性を評価できないだろうと思う)。そして今度はブラシで解体を説く。ピアノとアルトはフラグメンツを提供していたのだが、庄子さんは次第に音自体に力を込めてゆき、照内さんもまた拳や体全体を使っての激情へと移り変わってゆく。豊住さんがスティック2本で一気に叩く音は、フリーフォールのような迫力に満ちている(ふとMegさんを思い出した)。

終わりそうな即興を照内さんは静かに拒否し、抑制した音を連ねてゆく。庄子さんと豊住さんは擦れる音空間を創ってみせる(缶でアルトを擦っている!)。ここから各々の浮上劇。ピアノは響きの中から特定の音で浮かびあがり、ドラムスはシンバルの金属音やくしゃくしゃにした紙の音で浮かび上がり、またアルトは歪んだ音で浮かび上がる。そしてふたたび短いサウンドがあって、このセットが終わった。

10時前まで、南さんのうまいピザをいただきながらおしゃべり。山猫軒の愉しい8時間が終わったがまだ居座りたかった(帰りの電車でも照内さんやパフォーマンスアートの広瀬さんと話し続けた)。また行かなければならない。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●豊住芳三郎
豊住芳三郎+老丹+照内央晴@アケタの店(2019年)
豊住芳三郎+謝明諺@Candy(2019年)
ジョン・ラッセル+豊住芳三郎@稲毛Candy(2018年)
謝明諺『上善若水 As Good As Water』(JazzTokyo)(2017年)
ブロッツ&サブ@新宿ピットイン(2015年)
豊住芳三郎+ジョン・ラッセル『無為自然』(2013年)
豊住芳三郎『Sublimation』(2004年)
ポール・ラザフォード+豊住芳三郎『The Conscience』(1999年)
アーサー・ドイル+水谷孝+豊住芳三郎『Live in Japan 1997』(1997年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『滄海』(1976年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『新海』、高木元輝+加古隆『パリ日本館コンサート』(1976年、74年)
豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』、『藻』(1971年、75年)
富樫雅彦『風の遺した物語』(1975年)

●照内央晴
豊住芳三郎+老丹+照内央晴@アケタの店(2019年)
豊住芳三郎+謝明諺@Candy(2019年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2019年)
吉久昌樹+照内央晴@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2019年)
照内央晴、荻野やすよし、吉久昌樹、小沢あき@なってるハウス(2019年)
照内央晴+方波見智子@なってるハウス(2019年)
クレイグ・ペデルセン+エリザベス・ミラー+吉本裕美子+照内央晴@高円寺グッドマン(2018年)
照内央晴+川島誠@山猫軒(2018年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2018年)
『終わりなき歌 石内矢巳 花詩集III』@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2018年)
Cool Meeting vol.1@cooljojo(2018年)
Wavebender、照内央晴+松本ちはや@なってるハウス(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
ネッド・マックガウエン即興セッション@神保町試聴室(2017年)
照内央晴・松本ちはや《哀しみさえも星となりて》 CD発売記念コンサートツアー Final(JazzTokyo)(2017年)
照内央晴+松本ちはや、VOBトリオ@なってるハウス(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』@船橋きららホール(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』(JazzTokyo)(2016年)
照内央晴「九月に~即興演奏とダンスの夜 茶会記篇」@喫茶茶会記(JazzTokyo)(2016年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)