Sightsong

自縄自縛日記

メイシー・グレイ『Ruby』

2019-07-30 22:53:49 | ポップス

メイシー・グレイ『Ruby』(Mack Avenue Records、2018年)を聴く。

Macy Gray (vo)
Gary Clark Junior (g)
Johan Carlsson, Thomas Lumpkins, Meghan Trainor, Tommy Brown, Scott Bruzenak, Britten Newbill (synth)
Billy Wesson, John Jackson Junior (p)
Mattias Bylund, Leah Zeager (strings)
Mattias Johansson (vln)
David Bukovinszky (cello)
Christopher Johnson (tb)
Printz Board, Jan-Anders Bjerge, Stuart Cole (tp)
Tim "Izo" Orindgreff (sax, fl)
Wojtek Coral (sax)
Tomas Jonsson (ts)
Peter Noos Johansson, Chris Johnson (tb)
Thomas Lumpkins, Austin Brown (xylophone)
Michael Engstrom, Alex Kyne, Caleb Speir (b)
Austin Brown, Gabriel Santana, Trevor Lawrence Junior, Tamir Barzilay (ds)

前作『Stripped』ほどジャズやブルースに接近しているわけではなく、ほどよくジャズ要素が混じっている。逆に言えばジャズとして聴くなら物足りないのだが、メイシー・グレイの可愛いハスキー声も良いし、肩の力も抜けているし、悪くない。

しかし次作にはもっとサプライズや野心が欲しい。

●メイシー・グレイ
メイシー・グレイ『Stripped』(2016年)
メイシー・グレイ『The Way』(2014年)
デイヴィッド・マレイ・ビッグ・バンド featuring メイシー・グレイ@ブルーノート東京(2013年)
デイヴィッド・マレイ『Be My Monster Love』(2012年)
スティーヴィー・ワンダーとメイシー・グレイの『Talking Book』(1972年、2012年)


大墻敦『春画と日本人』

2019-07-30 21:31:58 | アート・映画

大墻敦『春画と日本人』(2018年)。音楽を担当してピアノを弾いている矢部優子さんから招待券を頂戴して、試写会に行ってきた。(ありがとうございます。)

テーマは、2015年の「春画展」開催を巡ってのあれこれ。

本来は、2013-14年に大英博物館で「春画―日本美術の性のたのしみ」が開催されたのを受けて、日本でも巡回展を開こうとする動きがあった。しかしそれは簡単ではなかった。春画に対するタブーは、享保の改革以来300年にわたり存続している、根の深いものであった。

なるほど、いまは何でも手に入るような錯覚を持ってしまうけれど、確かにちょっと前までは猥褻物に対する取り締まりはとても厳しかった。1991年の『浮世絵秘蔵名品集』はそれまで隠されてきた春画(葛飾北斎、喜多川歌麿、鳥居清長、歌川国貞)を立派な図版で出すという画期的なもので、1冊20万円・合計80万円と高価にも関わらず、3千部が完売した。だがこの実現に関わった人たちは逮捕されるのではないかとヒヤヒヤだったのだという。「あの程度」の『愛のコリーダ』本裁判だって70年代であり、決して大昔のことではない。

映画で紹介される春画の数々は、引いてしまうほど生々しく、つい笑ってしまう仕掛けが施されてもいて、しかも美しいものでもある。現代の彫り師と刷り師が同様の春画を作ってみたが、それにより如何に技巧が優れていたかわかるほどのものだという。白眉は北斎の「蛸と海女」。どうしてもアンジェイ・ズラウスキー『ポゼッション』(1981年)におけるイザベル・アジャーニを思い出してしまうのだが、調べてみると、実際にズラウスキーはこの春画に影響を受けていたようだ。(早い。)

そしてタブーであったとは言っても、それは表だけのことだった。日露戦争以降、兵士が春画を戦場に持っていく習慣があった。画面に映し出されるそれは兵士と看護婦の交わり。なるほどこの妄想は現在までつながっている。

映画に登場する方が、昔は「嬥歌」(かがい)という性の相手を自由に選ぶことができる集まりがあって、日本はほんらい性に対して自由であったと発言している。もっともそれは沖縄の「毛遊び」だってそうだし、ヴェトナム最北端のサパにも最近まで同様の集まりがあった(都会人が興味本位で集まるから廃止されたと酒井俊さんに言ったところ驚いていた)。つまり自由さは古来の日本に限った話ではない。この精神的な解放が春画を通じて共感されるならば、それこそアートというべきだ。

音楽も注意して聴いていたこともあって面白かった。ピアノの矢部優子さんとヴァイオリンの池田陽子さんの音が、ちょっとユーモラスで、ちょっと時代にとらわれない感じで、それがまた春画のありようと重なるようだった。

●サウンドトラック録音風景(面白い)

recording1080 from Atsushi OGAKI on Vimeo.


マリリン・クリスペル+タニヤ・カルマノヴィッチ+リチャード・タイテルバウム『Dream Libretto』

2019-07-30 20:52:32 | アヴァンギャルド・ジャズ

マリリン・クリスペル+タニヤ・カルマノヴィッチ+リチャード・タイテルバウム『Dream Libretto』(Leo Records、2018年)を聴く。

Marilyn Crispell (p)
Tanya Kalmanovitch (vln)
Richard Teitelbaum (electronics)

トリオによる前半の抑制された音も悪くはないが、ピアノとヴァイオリンのデュオによる後半のほうが、よりプロセスや遊戯が直接的に表出してきて好きである。

マリリン・クリスペルのピアノは清冽でいて半分は沼で腐っているようで、それがまた良い。その半腐乱の美しい音が弦の擦りの立ち上がりと消失の中に現れる。この出し引きの加減はヴァイオリンとの共演ならではだろうか。以前にミシェル・マカースキーのヴァイオリンを含めたトリオでのクリスペルの演奏は、まるで余裕で微笑む魔女のものだった。

●マリリン・クリスペル
ハーヴェイ・ソルゲン+ジョー・フォンダ+マリリン・クリスペル『Dreamstruck』(2018年)
マリリン・クリスペル+ルーカス・リゲティ+ミシェル・マカースキー@The Stone(2015年)
「ニューヨーク、冬の終わりのライヴ日記」(2015年)
ガイ+クリスペル+リットン『Deep Memory』(2015年)
プール+クリスペル+ピーコック『In Motion』(2014年)
ゲイリー・ピーコック+マリリン・クリスペル『Azure』(2011年)
クリスペル+ドレッサー+ヘミングウェイ『Play Braxton』(2010年)
ルイス・モホロ+マリリン・クリスペル『Sibanye (We Are One)』(2007年)
マリリン・クリスペル『Storyteller』(2003年)
マリリン・クリスペル+バリー・ガイ+ジェリー・ヘミングウェイ『Cascades』(1993年)
ペーター・ブロッツマン
エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』(1985年)
マリリン・クリスペル『A Concert in Berlin』(1983年)
映像『Woodstock Jazz Festival '81』(1981年)

●リチャード・タイテルバウム
アンドリュー・シリル『The Declaration of Musical Independence』(2014年)


マーク・ジュリアナ『Beat Music! Beat Music! Beat Music!』

2019-07-30 07:23:32 | アヴァンギャルド・ジャズ

マーク・ジュリアナ『Beat Music! Beat Music! Beat Music!』(Motéma、-2019年)を聴く。

Mark Guiliana (ds, electronics, spoken word)
Chris Morrissey (b) (tracks: 2, 4, 6, 7)
Jonathan Maron (b) (tracks: 1, 5)
Stu Brooks (b) (tracks: 3, 7, 9)
Tim Lefebvre (b) (tracks: 8)
Jason Lindner (synth) (tracks: 1, 3, 9)
BIGYUKI (synth) (tracks: 2, 7, 8)
Jeff Babko (synth) (tracks: 2, 6)
Steve Wall (electronics) (3)
Troy Zeigler (electronics)
Nate Werth (perc)
Cole Whittle (spoken word) (tracks: 1, 6, 8)
Gretchen Parlato (spoken word) (tracks: 8)
Jeff Taylor (spoken word) (tracks: 3, 5)
Marley Guiliana (spoken word) (tracks: 8)

シンセサウンドが全体を覆っている。最初は凡作かと思って聴いていたのだが、なんだこれと言わず音の向こう側のふるまいを想像すると愉しい。それは人力で、新しくも古くもあって、人懐っこい感じ。

それはマーク・ジュリアナも同じで、汗をかいての凄いテク。だがその労を想像させない、ではなく、それを演る方も聴く方も認め合っている。何が言いたいかというと、これもコミュニティ音楽だとして聴くと気持ちの収まりが良いということである。

●マーク・ジュリアナ
ダニー・マッキャスリン『Blow』(-2018年)
ダニー・マッキャスリン『Beyond Now』(2016年)
マーク・ジュリアナ@Cotton Club(2016年)
デイヴィッド・ボウイ『★』(2015年)
ダニー・マッキャスリン@55 Bar(2015年)
マーク・ジュリアナ『Family First』(2015年) 
ダニー・マッキャスリン『Fast Future』(2014年)
グレッチェン・パーラトの映像『Poland 2013』(2013年)
ダニー・マッキャスリン『Casting for Gravity』(2012年)