西荻窪の音や金時(2019/12/17)。
Taiko Matsumoto 松本泰子 (vo)
Mary Doumany (harp)
Miki Maruta 丸田美紀 (箏)
齋藤徹さんと縁のあった3人の集まり。それもあって、松本泰子さんが歌った『オペリータ うたをさがして』や、丸田美紀さんがKoto Vortexのひとりとして参加した『Stone Out』を予習のように聴いて出かけた。
ファーストセットはそれぞれの自己紹介としてのソロ。
メアリーさんの音を直に聴くのははじめてだが、ハープから想像する音の流れというよりも、一音一音がクリアに立っていることに驚き目が醒める。(ここでは過去の記事等との連続性を考慮して「ダウマニー」と書いているけれど、実際の発音は「ドゥマーニ」に近い。)
松本泰子さんは3年くらい前に徹さんにデュオを演りたいと言ったところ、即興を念頭に置いていたけれど、徹さんに「うたがいいな」と返されたとのこと。それもあって、うた、即興、またうたに戻った。
丸田美紀さんは、この日の前日が誕生日だった故・沢井忠夫さんの曲「鳥のように」。徹さんについては、どっちともわからなかった伝え方だったが今になってそれがわかる、と話した。CD以外で丸田さんを聴くのはやはりはじめてだが、メアリーさんと同様に、一音の強さに少し驚かされた。そして丸田さんは、メアリーさんがチューニングしながら弾くことのおもしろさ、微分音があって箏と一緒に演奏しても気持ち悪くないことを話し、泰子さんが、コントラバスもそうだっただろうと付け加えた。
セカンドセット、トリオ。宮沢賢治作詞作曲の「星めぐりの歌」はシンプルでとても素敵な詩であり、歌のあとに箏が繰り返し、ハープとともにサポートするような按配。そして、徹さんが7人の詩人たちとともにつくりあげた最後の仕事を演奏した(『Sluggish Waltz スロッギーのワルツ』)。
市川洋子「はじまりの時」は気がつくと柔らかく触れてくる感覚。野村喜和夫「防柵7(沈めよ、顔を)」では箏のイントロからはじまり、螺旋のように脳の底へと潜入してゆく感覚。箏とハープとが同じ場所で上へ下へと飛びまわるコンビネーションがとても良い。
ここでメアリーさんが徹さんについて語った。現代音楽の関係で日本に来ていたときに、徹さんに出逢った。それで2015年に再来日して、2、3回共演した。力強いコンビネーションで、ワイルドで、フリーで、ファンタスティックだった。わたしたちは良い友達になった。徹さんはメアリーさんが母親に似ていると言った、と。(急に泰子さんからマイクを渡されそれを通訳した。)来日のためのグラントの手続きで、受け入れ側の沢井一恵さんから丸田さんに話があり、そこからメアリーさんと丸田さんとの縁もできたということだ。
続いて、渡辺洋「ふりかえるまなざし」。「いっぽ」のところで実際に踏み出す泰子さん。複雑な旋律を全員で演奏し、メアリーさんも「ねばりづよく、ねばりづよく」と歌っている。この日、3人で最初のいっぽを踏み出せた、と、泰子さん。
木村裕「雫の音」では、メアリーさんは紙を弦の間にはさんで異音を出す。箏も異音側に動く。全員で何かのまわりをまわっているようだ。寶玉義彦「青嵐の家」で「日曜日の表参道」と歌うことの異化作用、ここに入ってくる驚きの弦の音音。薦田愛「てぃきら、うぃきら、ふぃきら、ゆきら、りきら、ら」。3人が同じ方向に歩いて愉しんでいる。最後に「~ら!」。
そして、三角みづ紀「Pilgrimage」。これだけは徹さんがはじめに曲を書き、三角みづ紀さんが詩を付けたものだという。弦を掻き鳴らす哀しさとその次にやってくる嬉しさ。伸びてこちらに直接届いてくる泰子さんの声。「この身体で」「身体だけで」という言葉があるからこその締めくくりに違いない。
なんて豊かな音楽世界なんだろうという気持ちばかりである。
Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4
●メアリー・ダウマニー
メアリー・ダウマニー+マイルス・ブラウン『The Narcoleptor』(2018年)
●松本泰子
松本泰子+庄﨑隆志+齋藤徹@横濱エアジン(『Sluggish Waltz - スロッギーのワルツ』DVD発売記念ライヴ)(2019年)
『Sluggish Waltz スロッギーのワルツ』(JazzTokyo)(2019年)