トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮文庫、原著2011年)を読む。
何だかよくわからないが、著者は、トースターを全部自分で作ってみようと思い立った。部品を買ってきて組み立てるのではない。部品のマテリアルからすべて作るのである。
まずは真似の基本、リバース・エンジニアリング。安物であっても、トースターの中には実にさまざまな素材によるさまざまな部品が入っている。
鉄は、鉄鉱石を調達してスーツケースに詰め込んで帰り、手製の炉で精錬。しかし、コークスを使った還元と、燃焼させるための酸素の供給とのバランスの解決がうまくいかない。銅は、銅鉱山の強酸性の水をタンクで持って帰り、電気分解。ニッケルは、ebayで硬貨を調達して溶かす(なんて罰当たりな)。筐体のプラスチックは、原油から精製して作るなんてできるわけもなく、じゃがいもからバイオマスプラスチックを作ろうとしたが挫折。結局、化石燃料だって過去の時代のものが溜ってできたものだし、ということで、無理やり相対化して、人間時代の遺物であるプラごみを溶かして型に流し込む(その型だって高温に耐えられるよう、丸太を削った力技)。
面白く、ときどき声を出して笑いそうになってしまう。なんてことない安物の部品であっても、そのすべてに文明の歴史と工学技術が詰まっている。著者は、この過激なる実践によって、それを体感し、巨大化した産業社会の姿を垣間見るわけである。さらには、正当なコストの反映や、環境の外部費用の内部化といったことについて思索する。
完成品は、表紙にある現代美術風のものである。はたしてこれを使い、パンに、旨さのしるしであるメイラード反応を与えることができるのか。それは読んでのお楽しみなのだが、まあ、どちらでもよいことだ。
抽象的に環境問題や社会変革をとらえることの限界を感じるためにも推薦。