先日、数人で神保町にある「ろしあ亭」のロシア料理を食べたときのこと。ボルシチの赤はビーツの色なんだと言って、記者のDさんが、P・ワイリ/A・ゲニス『亡命ロシア料理』(未知谷、原著1987年)を貸してくれた。
米国に亡命した2人の著者が書いたこの本は、レシピ集でもあり、超辛口のエッセイでもある。頑固かつ柔軟、パラノイアかつ大雑把。ハンバーガーなどの米国ジャンクフードを罵倒し、丁寧に作る料理の旨さを手を尽くして表現しようとしている。しかし時にはクロスボーダーとなる。
何だか妙に面白く、そのうち実際に使おうと思っていた。チャンスは日曜日に訪れた(というほどの大袈裟な話でもないが)。ああ、昼は「白いビーフストロガノフ」にしようと決めた。もう6年くらい前、友人宅でロシア帰りの夫が供してくれたのも、まさにこの「白いビーフストロガノフ」だった。
5人分の材料は、牛もも肉1kg(多い!)、小麦粉、玉葱、マッシュルーム、牛乳、サワークリーム、バター、マスタード、砂糖、塩、黒胡椒、油。肉を塊ではなく切り落としにしたのはまあいいとして、近くのスーパーに売っているマッシュルームはやけに高いので、日和ってしめじにした。もうこの段階で、「亡命ロシア料理」失格である。ただ、そのマッシュルームに対する思いもずいぶんと屈折している。
「革命前のロシアでは、キノコは1年に1人当たり50キログラムも消費されていた。が、いまや、モスクワの市場ではキノコ1個が1ルーブルもする。これで、わが祖国の精神的衰退は説明できるというものだ。」
「残念ながら、アメリカでキノコといえば、いつもマッシュルームだ。ただし、ここで困ったことは、「いつも」という言葉のほうであって、マッシュルーム自体は何も悪くない。マッシュルームは、それを生んだフランス文化みたいに、誘惑的で派手である(もっとも、当のフランス人は、ロシアのヤマドリタケや、いまや純潔のように希少なものになってしまったトリフの方が好きだというが)。」
ただ、著者によれば、サワークリーム(スメタナ)こそがロシア料理の特徴なのだそうだ。表紙の写真にも、いちいちサワークリームがかかっている。これまで自分では使ったことがなかったが、無事スーパーで捕獲した。
「これは、フランス人のところではバターであり、イタリア人とスペイン人のところではオリーブ・オイルであり、ドイツ人とウクライナ人のところではラードであり、ルーマニア人とモルダヴィア人のところではヒマワリ油である。ロシア料理で、こういった主たる潤滑剤となっているのは、スメタナなのだ。」
さて作ってみると、本当にいい加減なレシピだ。肉は間違えたのではないかというくらい多いし、バターや砂糖をどのように投入するかが書かれていない。しかし、すでに肉やキノコのチョイスで道を踏み外しているので、もう拘らない。
牛肉好きの自分にはとても旨いものになった。子どもたちもおかわりしてくれた。ただ全部食べたら身体がおかしくなりそうなので、半分方は冷凍にまわした。
次は、酒井啓子『イラクは食べる』や、ジャズのレシピ集という奇書『Jazz Cooks』を使って実験してみなければ・・・・・・。
●参照 酒井啓子『イラクは食べる』
おおそれは、と調べてみると、もう売っていないのです。古書は高くなっていますね。ちょっといかがわしくて、ぜひ読んでみたいところです。
#中国行きに重なってスクラヴィスを聴けなかった悔しさ・・・
それは残念…。来日に合わせて日本先行発売した新譜『YOKOHAMA』(Intakt)はまだディスクユニオン(通販)に在庫ある筈。是非聞いて下さいませ。
ありがとうございます。そうですね、『YOKOHAMA』。思い出して悔しくなくなったころに。スクラヴィスのDVDなんか出ていれば嬉しいところです。
神保町の「ろしあ亭」は、職場から近いので一度行ってみますよ。
たまにしかしない料理の自己満足です(つまり、悪い意味での「男の料理」)。サワークリームは調味に便利ですね。マスタードとも相性が良いです。テキトーな味付けでもなんとかなりそうな。
「ろしあ亭」は、先日がはじめてでしたが、リーズナブルで旨かったですよ。