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自縄自縛日記

熊谷博子『作兵衛さんと日本を掘る』

2019-06-10 21:15:43 | 九州

熊谷博子『作兵衛さんと日本を掘る』(2018年)を観る。

筑豊の炭鉱労働者であり、のちにその様子をたくさんの絵として描き残した山本作兵衛についてのドキュメンタリーである。

いまも残される坑口跡や設備があることに驚いてしまうが、その映像により、人を使い潰した歴史がさらに現実の歴史として迫ってくる。

それにしても、クローズアップによって仔細に観れば観るほど凄い絵の数々だ。現代美術の菊畑茂久馬が一時期創作から離れたのは、作兵衛の絵に衝撃を受けたからでもあった(知らなかった!)。それはリアルであるだけではない。語りや炭坑節が筆で書き込まれ、それを追っていくと歴史の変えようのなさに無力感を覚える。面白いことに、リアルでない面もあった。炭坑の中で女性が服を着ていることは、作兵衛の思いやりであった。それは炭鉱労働の経験者が絵を観て嘘だと笑ったから、わかったことである。その後の絵では、女性も上半身裸となっている。

上野英信さん、上野朱さん、当時の炭鉱労働者(老人ホームに入っている)、作兵衛のお孫さんなど、登場人物を絞ってじっくりと撮られた作品であり、とても濃密だ。

また、国策により職を追われた炭鉱労働者たちが、原子力発電の労働者となっていったことも示唆されていることにも、注目すべきだ。熊谷監督が『むかし原発いま炭鉱』でも言及していることである。たんにエネルギー政策という面だけではなく、労働者という面でも、石炭の歴史は原子力の歴史につながっている。それでは、原子力労働者は、次にどこに流れさせられるのか。軍事なのか。

黒田京子・喜多直毅デュオの音楽も出色。

あわせて、隣のカフェ・ポレポレ坐での「上野英信の坑口」展も観た。福岡市文学館で2017年に開かれた『上野英信展 闇の声をきざむ』と連携した展示である。筑豊文庫創立の書、上野英信の珍しい版画、サークル村の機関誌、上野が使っていた万年筆(メーカーがわからなかった)、『眉屋私記』を書き換えた過程がわかる原稿、ボタなど、興味深い展示だった。改めて、上野がもっと生きていて沖縄をさらに深堀していたなら、と考えてしまう。

山本作兵衛を世に紹介しようとした上野英信は、炭鉱労働にとどまらず、移民(原子力と同様、炭坑労働者の棄民政策として)、南米、沖縄とどんどん視野を拡げ、また同時に深堀もしていった。そしてその根っこに、天皇制を見出していた。

「戦場であれ、炭鉱であれ、日本人であれ、朝鮮人であれ、<いわれなき死>の煙のたちのぼるところ、そこにかならず<天皇>はたちあらわれるのです。」(『天皇陛下萬歳』)

●炭鉱
上野英信『追われゆく坑夫たち』
上野英信『眉屋私記』
『上野英信展 闇の声をきざむ』
伊藤智永『忘却された支配』
西嶋真治『抗い 記録作家 林えいだい』
奈賀悟『閉山 三井三池炭坑1889-1997』
熊谷博子『むかし原発いま炭鉱』
熊谷博子『三池 終わらない炭鉱の物語』
山本作兵衛の映像 工藤敏樹『ある人生/ぼた山よ・・・』、『新日曜美術館/よみがえる地底の記憶』
本橋成一『炭鉱』
三木健『西表炭坑概史』
勅使河原宏『おとし穴』(北九州の炭鉱)
友田義行『戦後前衛映画と文学 安部公房×勅使河原宏』
本多猪四郎『空の大怪獣ラドン』(九州の仮想的な炭鉱)
佐藤仁『「持たざる国」の資源論』
石井寛治『日本の産業革命』


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