東京近郊の鉄道会社が開発したニュータウンに住む、定年退職した元サラリーマン達の姿を描く。家では所在なく、暇つぶしと運動不足解消に始めた散歩で町内の「ご同輩」と知り合い、交流を深めてゆくが万事順調とはゆかない。成人した子供たちは都心まで時間が掛かるのを嫌って家を出て戻らず、二世帯住宅を作っても虚しいだけ。
実にリアルに思える。ただし本書の舞台であるニュータウンは「新宿まで電車で1時間半」とされているが、現在ここまで時間の掛かる場所は無く(ドアtoドアなら話は別)、ちょっと大仰。新宿と出ている以上、想定されるのは小田急か京王、そして西武だと思うのだが。
本作の主人公は銀行を勤め上げた、真面目だけが取り柄みたいな男性。家庭を持ち一軒家を持ち子供達を育て上げ、傍目には立派な人生を送ったように見えるのか。幸せの尺度は人それぞれだが、自分なら、こんな人生は嫌だ。事実、退職した主人公もその後の暮らしに不満不安を抱いているではないか。ああ、こういう人生を送らなくて良かったと、わが身を振り返り思ったことだった。でもこういうペーソスに共感する人も多いんだろうなあ。
2024年3月6日 佐伯市のホテルにて読了
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