原題:『MOTHER マザー』
監督:大森立嗣
脚本:大森立嗣/港岳彦
撮影:辻智彦
出演:長澤まさみ/奥平大兼/夏帆/皆川猿時/仲野太賀/土村芳/木野花/阿部サダヲ
2020年/日本
リアリズムのジレンマについて
主人公の三隅秋子は息子の周平が小学5年生頃までは、別れた夫からの月五万円の養育費や両親と妹の援助で生計を立てていたが、秋子に働く様子が見えず貸した20万円を返さずにさらに借金しようとしたことで家族と縁を切られてしまい、ゲームセンターで出会った川田遼と同棲を始め、市役所勤務で秋子の生活の相談にのっていた宇治田守を脅してお金を巻き上げるようになる。
やがて秋子が妊娠したことを知ると遼は行方をくらまし、秋子は一人で楓を産んで、さらに5年の月日が流れ3人はホームレスとして暮らしている。児童相談所の職員である亜矢たちに見つけられたことで簡易宿泊所で暮らせるようになるが、再び遼が転がり込んできて生活は荒れだして、中学生であるはずの周平はフリースクールに通いだしていたがすぐに秋子に止めさせられる。
ついに「事件」が起こり、秋子は執行猶予付きの判決だったが、周平は懲役12年の実刑だった。つまり母親と祖父母や勤め先の社長などの間に立たされて両方から一身に罵詈雑言を浴びせられてきたにも関わらず、自ら全ての責任を背負った周平の秋子に対する愛情は本物だったのであるが、周平を「失った」ことで秋子はようやく現実を知るのである。
しかし本作には致命的な欠点があると思う。秋子を演じた長澤まさみほどの美貌の持ち主ならば「男性」に困ることはないはずだから、お金に逼迫することもないのであるが、例えば、秋子の役を富田望生のような「絶妙」な俳優が演じるならば、リアリズムは増すとしても興行的には厳しいはずで、やはり長澤まさみくらいのスターを主役としてキャスティングしなければ制作そのものが難しくなってしまうというジレンマは理解できる。