原題:『Miss Peregrine's Home for Peculiar Children』 監督:ティム・バートン 脚本:ジェーン・ゴールドマン 撮影:ブリュノ・デルボネル 出演:エヴァ・グリーン/エイサ・バターフィールド/サミュエル・L・ジャクソン/ジュディ・デンチ 2016年/アメリカ
なかなか巧みにならない日本の描写について
登場人物たちの造形の巧みさはさすがティム・バートン監督と思わせる上手さなのだが、どうも前半のストーリーテリングの遅さを挽回するかのような後半の怒涛の展開にバランスの悪さが生じ、それは「ループ(loop)」とそれ以外の世界を描き分けているのかもしれないのだが、ラストの主人公のジェイク・ポートマンとエマ・ブルームの再会に余韻が感じられない。 だからエマに再会するためのジェイクの世界一周の旅はとても慌ただしく、却って気がつかれなくて良い点もあり、例えば、日本に立ち寄ったジェイクはプリクラを撮るのであるが、そのプリクラ機も含めた日本はやはりどこか中華風で、だから『王様のためのホログラム』(トム・ティクヴァ監督 2016年)だけが特別酷いという訳ではないということだけは言い添えておきたい。 本作のエンディングテーマであるフローレンス・アンド・ザ・マシーン(Florence + The Machine)の「Wish That You Were Here」という名曲を和訳しておきたい。
「Wish That You Were Here」 Florence + The Machine 日本語訳
主人公の法会計士のクリスチャン・ウルフは高機能の自閉症を患っており、それは1964年2月25日の試合において対戦相手のソニー・リストンを倒した直後のモハメド・アリが写っているジグゾーパズルを裏面で完成させてしまう驚異の能力で証明される。 元軍人だった父親に鍛えられたことで2016年現在ウルフは分刻みの規則正しい生活を送りながら発症を抑えているのであるが、それは例えば居住場所として使っているウルフのキャンピングトレーラーにはウルフの母親を想わせるオーギュスト・ルノアールの作品と自分の心の内をイメージさせるようなジャクソン・ポロックの作品が掲げられており、印象派と抽象絵画という対照的な作品の併存でウルフの心象を表しているのである。 ラストでウルフがデイナ・カミングスに贈った作品は『ポーカーをする犬(Dogs in The Poker)』だった。それは2人が最初に会った頃に話題に出た作品で、デイナは嫌いだと言ったのだが、ウルフは嫌いではないと語っていた。デイナがその作品に下に本物のポロックの作品を見いだした時、私たち観客はウルフの社会的な立場とその下に隠された心の闇を察するのである。 会社のCEОのラマー・ブラックバーンが、自分は医療用障害者支援ロボットを開発してきたと力説している最中に、ウルフが呆気なく銃殺してしまうところが興味深い。デイナを助けに行ったのも彼女が妹に似ていたからであって、ウルフには家族という身近な者以外には冷淡なのである。