MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『サバイバルファミリー』

2017-02-18 00:28:43 | goo映画レビュー

原題:『サバイバルファミリー』
監督:矢口史靖
脚本:矢口史靖
撮影:葛西誉仁
出演:小日向文世/深津絵里/泉澤祐希/葵わかな/大地康雄/時任三郎/藤原紀香/柄本明
2017年/日本

余計な制作費をかけて撮る「B級作品」について

 矢口史靖監督作品の「B級感」はこの新作においても感じられるもので、そもそも鈴木一家を見舞う謎の大停電はラストで太陽の大規模なフレアではないかと推察されるものの、電池さえ機能しなくなるような停電の原因ははっきりしないままで、設定が曖昧な本作はSF作品でさえないのである。
 あるいは細かい演出に目を向けるならば、渡辺えりが演じた質屋の女将の古田富子に、ある男が腕にしていたロレックスを女将の前に置いて食料を求めるものの、もはや何の役にも立たない高級腕時計に女将は見向きもせず、さらに男は高級自動車のキーを渡すのであるが、女将は怒鳴り散らして男を追い返す。その際に男はロレックスを質屋に残したまま去っていくのであるが、いくら価値がなくなったとはいえ本人には思い入れのあるロレックスを置いて行ってしまうことは考えにくく、ここに矢口監督の演出の「B級感」を感じるのである。
 とは言え、本作が失敗作だと言うのではない。矢口監督作品の特異さは必要以上の制作費をかけて「B級」作品を撮る贅沢さにあり、『アドレナリンドライブ』(1999年)が失敗しているとするならば、制作費の低さにあったのではないかと思うのである。


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『アドレナリンドライブ』

2017-02-17 00:52:57 | goo映画レビュー

原題:『アドレナリンドライブ』
監督:矢口史靖
脚本:矢口史靖
撮影:浜田毅
出演:石田ひかり/安藤政信/松重豊/角替和枝/マギー/坂田聡/木下明水/長谷川朝晴/田中要次
1999年/日本

コメディ映画に潜む「違法性」の是非について

 矢口史靖監督は3作目となる本作から脚本も一人で手掛けるようになり今日に至り、『ウォーターボーイズ』(2001年)や『スウィングガールズ』(2004年)が予想外にヒットしてしまったので誤解を招いており、確かに『ハッピーフライト』(2008年)はとても良く出来た作品であることは認めるとしても、矢口史靖監督は本来「B級」の映画監督だと思う。

 例えば、本作において最初は運転手はシートベルトを締めているのであるが(写真左)、その後のシーンはシートベルトを着用しなくなり、定員オーバーでさえある(写真右)。

 あるいは上の写真に写っているように、いくら暴力団の組員といえども無断で看護婦のお尻に触れば、セクハラである。
 今本作を見返してみるとなかなか笑えないシーンが多いのだが、これは監督のセンスの問題なのか、あるいは前世紀に制作されたという時代的な問題なのか微妙ではある。


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『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』

2017-02-16 00:56:12 | goo映画レビュー

原題:『Miss Peregrine's Home for Peculiar Children』
監督:ティム・バートン
脚本:ジェーン・ゴールドマン
撮影:ブリュノ・デルボネル
出演:エヴァ・グリーン/エイサ・バターフィールド/サミュエル・L・ジャクソン/ジュディ・デンチ
2016年/アメリカ

なかなか巧みにならない日本の描写について

 登場人物たちの造形の巧みさはさすがティム・バートン監督と思わせる上手さなのだが、どうも前半のストーリーテリングの遅さを挽回するかのような後半の怒涛の展開にバランスの悪さが生じ、それは「ループ(loop)」とそれ以外の世界を描き分けているのかもしれないのだが、ラストの主人公のジェイク・ポートマンとエマ・ブルームの再会に余韻が感じられない。
 だからエマに再会するためのジェイクの世界一周の旅はとても慌ただしく、却って気がつかれなくて良い点もあり、例えば、日本に立ち寄ったジェイクはプリクラを撮るのであるが、そのプリクラ機も含めた日本はやはりどこか中華風で、だから『王様のためのホログラム』(トム・ティクヴァ監督 2016年)だけが特別酷いという訳ではないということだけは言い添えておきたい。
 本作のエンディングテーマであるフローレンス・アンド・ザ・マシーン(Florence + The Machine)の「Wish That You Were Here」という名曲を和訳しておきたい。

「Wish That You Were Here」 Florence + The Machine 日本語訳

私は全てを置いて去っていこうと試みてはいるけれど
目が覚めると全てが私のそばにあった
私は信じてはいないけれど
様々な感情も一緒に旅をするということは真実なんだと思う
ほら、また旅をしてきた感情が私の胸にたどり着く
私の呼吸に合わせることは難しいけれど
私は変化の兆しをなんとか捉える

あなたはいつだって私の心の中にいる
あなたはいつだって私の心の中にいる

私は決して独力でやることをためらわなかった
私の中で何かが壊れて
あなたがいる家に帰りたかったけれど
あなたに近づけば近づくほどあなたがますます遠くに感じる
私は歌いながらあなたを求めている
穏やかな風に乗って私の歌が届けば良いと思う
歌があなたを包み
あなたの耳元で囁き
あなたがいなくて寂しくて
あなたがここにいてくれれば良いのにと歌うのだ

もしも家にいたならば
手放さなければならないものがたくさんあることに私は気づかないだろう
いつでもあなたは姿を消してしまうけれど
まだ私は光の中にあなたを見つけ出す
あなたを巡って影たちが戦い合う
それは美しいけれど
目の前で繰り広げられる闘争なんだ
私はタイムトラベルを止めなければならない
あなたはいつだって私の心の中にいる

あなたはいつだって私の心の中にいる
あなたはいつだって私の心の中にいる

私は決して独力でやることをためらわなかった
私の中で何かが壊れて
あなたがいる家に帰りたかったけれど
あなたに近づけば近づくほどあなたがますます遠くに感じる
私は歌いながらあなたを求めている
穏やかな風に乗って私の歌が届けば良いと思う
歌があなたを包み
あなたの耳元で囁き
あなたがいなくて寂しくて
あなたがここにいてくれれば良いのにと歌うのだ

私たちは全員私たちを守ってくれる何かを必要とする
鷹や雲や十字星に乗るんだ
寄せては返す波の間で私たちはみんな言葉を無くした

私は決して独力でやることをためらわなかった
私の中で何かが壊れて
あなたがいる家に帰りたかったけれど
あなたに近づけば近づくほどあなたがますます遠くに感じる
私は歌いながらあなたを求めている
穏やかな風に乗って私の歌が届けば良いと思う
歌があなたを包み
あなたの耳元で囁き
あなたがいなくて寂しくて
あなたがここにいてくれれば良いのにと歌うのだ

あなたがここにいてくれれば良いのに
あなたがここにいてくれれば良いのに
あなたがここにいてくれれば良いのに

Wish That You Were Here (From “Miss Peregrine’s Home for Peculiar Children”)


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『王様のためのホログラム』

2017-02-15 17:07:58 | goo映画レビュー

原題:『A Hologram for the King』
監督:トム・ティクヴァ
脚本:トム・ティクヴァ
撮影:フランク・グリーベ
出演:トム・ハンクス/アレクサンダー・ブラック/サリター・チョウドリー/シセ・バベット・クヌッセン
2016年/アメリカ

克服困難な「自分探し」というテーマのつまらなさについて

 作品の冒頭でアメリカからサウジアラビアに入国する際に、主人公のアラン・クレイのパスポートに捺されたスタンプは「2010年9月25日」の日付になっており、この中途半端な設定時期は何なのか考えていたら、2010年12月頃から始まった「アラブの春(Arab Spring)」の前でまだインターネットが重要視されていなかった頃のサウジアラビアの中でIT企業に勤める主人公が3Dホログラムを使ったテレビ会議システムをセールスする奮闘を描くためだったのであろう。
 やはり外国のコメディ映画を理解するのが難しいと思わされた理由は、例えば、クレイが「目が無い魚を何と呼ぶか」と出したクイズに対して答えに窮しているサウジアラビアの国王の甥に「フッシュ」だという答えがいまいちピンとこないことで、それは「目(eye)」とアルファベットの「i」が同じ発音だから「魚(fish)」から「i」を取って「フッシュ(fsh)」なのである。
 しかしクレイが同僚の女性が「アラビアのロレンス」を知らないことを嘆いたことは共感するものの、映画のセリフで当てることはなかなか難しいと思う。クレイは『アラビアのロレンス』(デヴィッド・リーン監督 1962年)の中の、「怪我は酷いのか?」とブライトン大佐に訊かれ「全然。知らなかったのか? 奴らが俺を殺せるとするならば黄金の銃弾を使う時だけだから」と答える主人公のトーマス・エドワード・ロレンスの一応有名なセリフで自分自身の立場と「アラビアのロレンス」を関連付けさせようとするのだが、これはかなりの映画好きでさえ難解な問題である。
 いずれにしても監督のセンスの良さは分かるのであるが、ようするに本作は「自分探し」がテーマで、 かつてジュリア・ロバーツが主演した『食べて、祈って、恋をして』(ライアン・マーフィー監督 2010年)のように母国で疲れて外国へ行って「本当の自分」を見つけるのである。だから必然的に結末がありきたりになりつまらなくなってしまうのである。トム・ハンクス主演の作品で最低の興行成績だったことが納得できる。本作の日本語字幕翻訳に間違いが結構見られたが、DVDでは直されているだろう。
 それでも冒頭のトーキング・ヘッズ(Talking Heads)の「Once in a Lifetime」のトム・ハンクス本人の歌唱は素晴らしい。多少歌詞を変えて歌っているがここではオリジナルの歌詞を和訳しておきたい。

「Once in a Lifetime」Talking Heads 日本語訳

君は突貫工事のバラック小屋に君自身が住んでいることを発見する可能性もある
あるいは君自身が違う世界にいることを発見する可能性もある
あるいは大きな自動車の車輪の下敷きになっている君自身を発見する可能性もある
あるいは美しい家で美しい奥さんと一緒にいる君自身を発見する可能性もある
あるいは君は君自身が......待てよ、俺はここでどうなったんだ?

日々流れるままにしておこう
水が俺の行動を抑えるままにしておこう
日々流れるままにしておこう
地下に流れ込む水のように
お金が無くなればまた青い海に飛び込むさ
人生は一度だけ 水が地下に流れ込むように

そして君は君自身に問うだろう
俺はこれにどう取り組めばいいのか?
そして君は君自身に問うだろう
あの大きな自動車はどこにあるのか?
そして君は君自身に言うだろう
これは俺の美しい家ではない
そして君は君自身に言うだろう
これは俺の美しい妻ではない

日々流れるままにしておこう
水が俺の行動を抑えるままにしておこう
日々流れるままにしておこう
地下に流れ込む水のように
お金が無くなればまた青い海に飛び込むさ
人生は一度だけ 水が地下に流れ込むように

前と同じなんだ
全く変化がない......

水が消滅して移動していく
大洋の底の水を運び出せ
大洋の底の水を移動させろ

日々流れるままにしておこう
水が俺の行動を抑えるままにしておこう
日々流れるままにしておこう
地下に流れ込む水のように
また青い海に、静寂な水の中に飛び込むさ
岩や石の下に、地下に水はある

日々流れるままにしておこう
水が俺の行動を抑えるままにしておこう
日々流れるままにしておこう
地下に流れ込む水のように
お金が無くなればまた青い海に飛び込むさ
人生は一度だけ 水が地下に流れ込むように

そして君は君自身に問うだろう
あの美しい家は何なのか?
そして君は君自身に問うだろう
あのハイウェイはどこに向かっているのか?
そして君は君自身に問うだろう
俺は正しいのか、間違っているのか?
そして君は君自身に言うだろう
「俺は一体何をしているんだ?」

日々流れるままにしておこう
水が俺の行動を抑えるままにしておこう
日々流れるままにしておこう
地下に流れ込む水のように
また青い海に、静寂な水の中に飛び込むさ
岩や石の下に、地下に水はある

日々流れるままにしておこう
水が俺の行動を抑えるままにしておこう
日々流れるままにしておこう
地下に流れ込む水のように
お金が無くなればまた青い海に飛び込むさ
人生は一度だけ 水が地下に流れ込むように

前と同じなんだ
全く変化がない......

Talking Heads - Once in a Lifetime (Official Video)


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『傷物語〈III 冷血篇〉』

2017-02-14 00:09:54 | goo映画レビュー

原題:『傷物語〈III 冷血篇〉』
監督:尾石達也
脚本:東冨耶子/新房昭之/木澤行人/中本宗応
出演:神谷浩史/櫻井孝宏/江原正士/入野自由/大塚芳忠/坂本真綾/堀江由衣
2017年/日本

「反東京オリンピック」の物語について

 最初に驚かされるのは画のタッチで、かつての「タツノコプロ」的な緩い筆致でありながら、そこにマティスやリキテンスタインやウォーホルのタッチが加えられていくところが凝っている。
 ところで何故今「タツノコプロ」的なものを敢えて持ち出してきたのか勘案するならば、立ち並ぶマンションやクライマックスの舞台となる国立競技場にかざされる無数の日本国旗が大いに関係するであろう。旧国立競技場は1964年に開催された東京オリンピックの競技会場として建設されたもので、その時のオリンピック時の日本選手団が入場した際の実際のテレビ放送の実況のナレーションが流れ、その中で主人公の阿良々木暦と吸血鬼のキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが死闘を演じることになる。
 当然のことながら観ている私たちはどちらが勝つのか見守ることになるのだが、物語は思わぬ展開に見舞われる。どちらかが生き残るためにはどちらかが死ななければならないという窮極の選択を迫られる中、暦は忍野メメのアドバイスを受けて、キスショットは限りなく人間に近い吸血鬼として、暦自身は限りなく吸血鬼に近い人間として2人とも「敗者」として生きることにし、その秘密は誰にも語り継がれることにはならないことになる。思い返してみるならば、ドラマツルギー(=作劇法)もエピソード(=逸話)も「死んでいる」今、ストーリーを語る意義はなくなっているのである。本作は2020年に行われる予定になっている東京オリンピックに対する「反東京オリンピック」の物語である。


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『劇場版 艦これ』

2017-02-13 00:42:29 | goo映画レビュー

原題:『劇場版 艦これ』
監督:草川啓造
脚本:花田十輝/田中謙介
出演:上坂すみれ/藤田咲/井口裕香/佐倉綾音/竹達彩奈/東山奈央/野水伊織/堀江由衣
2016年/日本

ガンダムの「女の子版」について

 女の子たちが第二次世界大戦時の大日本帝国海軍の軍艦に扮するという設定であるためてっきり『ガールズ&パンツァー 劇場版』(水島努監督 2015年)の海洋版だと思って観にいったが、『ガールズ&パンツァー』のようなほのぼのした感じが全くなく重苦しい雰囲気が漂うシリアスな物語だった。
 いわゆる「艦娘(かんむす)」たちが戦っている相手が、かつての仲間たちであるという設定は将棋のルールから取られていると思うが、本作の元ネタが育成シミュレーションゲームだと知らなければ、艦娘たちの拠点が「鎮守府」と呼ばれており、戦場が「南方」の海域であるため右翼のアニメオタクが作った「レクイエム(鎮魂歌)」のように見えなくもない。


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『ブラック・ファイル 野心の代償』

2017-02-12 00:19:05 | goo映画レビュー

原題:『Misconduct(職権濫用)』
監督:シンタロウ・シモサワ
脚本:アダム・メイソン/サイモン・ボーイス
撮影:マイケル・フィモグナリ
出演:アンソニー・ホプキンス/アル・パチーノ/ジョシュ・デュアメル/マリン・アッカーマン
2016年/アメリカ

「会計士」の違いについて

 演出が悪いのか脚本が悪いのか、いずれにしても最後のオチは悪くはないのだが、そこにたどり着くまでのストーリーの流れがぎこちない。
 一番の問題はイ・ビョンホンが演じている「会計士」の存在である。「会計士」は主人公の若手弁護士であるベン・ケイヒルの命を狙っているようなのであるが、彼の行動の意味が不明なのである。「会計士」はベンの愛人であるエミリー・ハインズではなく、隣人のエイミーを撲殺してしまうのであるが(エミリーとエイミーの名前も紛らわしいのだが)、理由がよく分からない。その後、ベンの妻のシャーロット・ケイヒルとベンを人気の無い教会に連れてきて2人とも殺そうとするのであるが、いとも簡単にベンに逆襲されて殺されてしまうのである。例えば、『ザ・コンサルタント(The Accountant 会計士)』(ギャヴィン・オコナー監督 2016年)のように伏線があるならば納得できるのであるが、ベンが無敵な理由が明らかにされることはない。あるいはラストでベンが上司のチャールズ・エイブラムスとレストランで対峙する際に、チャールズが警官から信じがたい手さばきで拳銃を奪ってしまう時、自分の目を疑ってしまった。
 アンソニー・ホプキンスやアル・パチーノまで揃えてこの程度の作品しか撮れない監督が何故選ばれたのか謎である。


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『ザ・コンサルタント』

2017-02-11 21:32:02 | goo映画レビュー

原題:『The Accountant』
監督:ギャヴィン・オコナー
脚本:ビル・ドゥビューク
撮影:シーマス・マクガーヴィ
出演:ベン・アフレック/アナ・ケンドリック/J・K・シモンズ/ジョン・バーンサル/ジョン・リスゴー
2016年/アメリカ

所有している絵画で暗示される主人公の心象風景について

 主人公の法会計士のクリスチャン・ウルフは高機能の自閉症を患っており、それは1964年2月25日の試合において対戦相手のソニー・リストンを倒した直後のモハメド・アリが写っているジグゾーパズルを裏面で完成させてしまう驚異の能力で証明される。
 元軍人だった父親に鍛えられたことで2016年現在ウルフは分刻みの規則正しい生活を送りながら発症を抑えているのであるが、それは例えば居住場所として使っているウルフのキャンピングトレーラーにはウルフの母親を想わせるオーギュスト・ルノアールの作品と自分の心の内をイメージさせるようなジャクソン・ポロックの作品が掲げられており、印象派と抽象絵画という対照的な作品の併存でウルフの心象を表しているのである。
 ラストでウルフがデイナ・カミングスに贈った作品は『ポーカーをする犬(Dogs in The Poker)』だった。それは2人が最初に会った頃に話題に出た作品で、デイナは嫌いだと言ったのだが、ウルフは嫌いではないと語っていた。デイナがその作品に下に本物のポロックの作品を見いだした時、私たち観客はウルフの社会的な立場とその下に隠された心の闇を察するのである。
 会社のCEОのラマー・ブラックバーンが、自分は医療用障害者支援ロボットを開発してきたと力説している最中に、ウルフが呆気なく銃殺してしまうところが興味深い。デイナを助けに行ったのも彼女が妹に似ていたからであって、ウルフには家族という身近な者以外には冷淡なのである。


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『マグニフィセント・セブン』

2017-02-10 00:46:07 | goo映画レビュー

原題:『The Magnificent Seven』
監督:アントワン・フークア
脚本:ニック・ピゾラット/リチャード・ウェンク
撮影:マウロ・フィオーレ
出演:デンゼル・ワシントン/ピーター・サーズガード/クリス・プラット/ヘイリー・ベネット
2016年/アメリカ

洗練されていく「7人」について

 1879年のアメリカ西部のローズ・クリークという街は開拓者たちによってようやく拓けてきた街だったが、近くの鉱山から黄金が発掘されるようになってから悪徳実業家のバーソロミュー・ボーグたちが牛耳るようになり、教会を燃やした後に住民たちに出て行くように強要する。
 目の前で夫のマシューを銃殺されたエマ・カレンは復讐を果たすべく用心棒を探している時に出会った者が委任執行官である黒人のサム・チザムだった。サムは意外と簡単に6人の仲間を集めてローズ・クリークに向かう。仲間を集めるまでの過程の描写が荒いという意見は最もだと思うが、南北戦争が終わったばかりの腕利きのアウトローたちは絶えず自分の「死に方」を考えていたのかもしれない。
 仕事でボーグが留守だったローズ・クリークには、それでも強者たちがチザムたちを迎え撃つのであるが、何とか7人で保安官を除いて仕留めてしまう。その時に流れるBGMは笙のようなもので、これは原作の『七人の侍』(黒澤明監督 1954年)のオマージュであろう。
 ボーグたちが戻ってきた時のクライマックスは観てのお楽しみといったところだが、チザムがエマ・カレンの依頼を引き受けた理由は、自身の委任執行官という公的な立場によるものではなく、12年前に地元のカンザス州で母親と2人の妹を殺したボーグに対する復讐だったのである。本作を観た後だったから『スノーデン』(オリバー・ストーン監督 2016年)に対する評価が厳しくなったことは否定しない。
 因みにクエンティン・タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト(The Hateful Eight)』(2015年)のタイトルの由来は本作のタイトル「マグニフィセント・セブン(素晴らしい7人)」をもじって「ヘイトフル・エイト(嫌な8人)」なのである。


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『スノーデン』

2017-02-09 00:56:47 | goo映画レビュー

原題:『Snowden』
監督:オリヴァー・ストーン
脚本:オリヴァー・ストーン/キーラン・フィッツジェラルド
撮影:アンソニー・ドッド・マントル
出演:ジョゼフ・ゴードン=レヴィット/シャイリーン・ウッドリー/メリッサ・レオ/ニコラス・ケイジ
2016年/アメリカ・ドイツ

情報の「処理」の仕方について

 『未来を花束にして』(サラ・ガヴロン監督 2015年)と同様に本作も評価が難しい。アメリカ国家安全保障局(NSA)の機密情報を「真の自由と民主主義の為に公表した」という名目で暴露したエドワード・スノーデンは、だからと言って引き続き暴露した場所である中国や現在滞在しているロシアに対しても同様の行動を起こしているようには見えず、本作を観た範囲で言うならばアメリカ軍の特殊部隊に配属されるものの訓練中の事故で除隊したり、てんかんの持病を抱えていたりとどうも公益よりも挫折による怨みの方が若干勝っているように見えるのである。
 作品自体にも違和感がある理由は、スノーデンが恋人のリンゼイ・ミルズと日本に滞在している部屋の「襖」が、和室というよりも中華風であり、ラストで世界中にニュースが流れる中で、日本語のナレーションが被さっているニュース番組の映像も中国風なのである。これだけ機密情報が明らかになったという事実を基にした作品において、日本と中国の区別がいまだに付いていないというのは、せっかく得た情報を処理しきれていないというより深刻な問題が取り残されたままなのである。
 それにしてもオバマ大統領の退任後に大統領職に就いた男が、もはや真実などどうでもよく「真の自由と民主主義」に止めを刺そうとしているドナルド・トランプになったことは皮肉としか言いようがない。


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