(津軽夕景@新里~館田間)
この山の姿を見れば、「きっと帰って来るんだと、お岩木山で手を振れば・・・」と思わず口ずさんでしまう。日本に「〇〇富士」はいくつもありますけれども、その立ち姿から津軽富士と例えられるのが津軽の名峰・岩木山。津軽平野のどこから見てもその姿を仰ぎ見ることのできる母なる山は、すっきりとその姿を見せる独立峰でもあります。陣取ったのはお馴染み新里~館田間。平川の鉄橋から小さな築堤を緩く降りて来るシーン、このアングルだとレールの右奥に雄大な津軽富士のお姿がガッツリと見える、私的にはお気に入りの弘南線の名撮影地です。弘前へ上がって行ったラッセルコンビ、黒石の駅までの返却回送(?)シーンを狙います。回送を待っている間に矢立峠の方向に太陽は落ち、夕暮れの近付く津軽平野は、それこそ分刻みで足元から寒さが這い上がってくるようで、日中に比べると、路傍に積もった雪も寒さで固く締まって来るのが分かる。定期の27レが通過した後、頃合いがあって新里の駅を出るラッセル列車の汽笛の音が聞こえた。平川の鉄橋を渡る音がだんだんと大きくなって、ほんのりと焼けた茜空の下を、塒(ねぐら)に向かうラッセルコンビ。その姿を、お岩木山が優しく見つめます。
大振りなパンタをかざして走り行くED333。戦前の舶来電機らしい古めかしいルーバーや台車と、そしてキ104の特殊車両として作り込まれたギミックが生み出す複雑な造形美。冬の夕暮れの残照を浴びて、古豪たちのボディに刻まれたシルエットが浮かび上がります。こんな素敵な風景を独り占めして申し訳ない気分にもなって来るのだが、津軽の冬の神様の行軍にシャッターの回数も弾んでしまう。雪晴れの中で積もった雪を吹っ飛ばす勇ましい走行シーンもいいけれども、こういう「一仕事終えた感(仕事してないけど)」の回雪シーンもいいものだ。そして、本来であればラッセルって電車が走る前に雪をどかすのが仕事ですから、それこそ始発の前とか、時間としても仕事するのは割と朝早い時間ですよね。こんな夕暮れの風景を行くラッセルってのは、あまり見られないのではないかなあ・・・と思う。
柏農高前の雪山に登って。静かに黒石へ帰って行くED333とキ104のコンビ。午後五時を過ぎて日暮れる津軽の郷の光はどんどんと弱くなり、キ104の真っ黒いボディなどは全くその姿を結ばないのだが、我慢できるくらいに感度を上げてなんとか写し止める。それにしても、暮れて行く平賀の街をバックに一面の雪原を往くED333の一灯ライトの優しい灯りよ。まさに「津軽慕情」という感じの風景は、なんとも心に沁み込むような優しさがあります。おそらく、こんな時間にラッセルの試運転のスジが引かれているとも思わないので、どこかの誰かさんの貸切運行のフォトラン(チャーター)に乗っかってしまった形になっていたのかもしれないんですけど・・・いい鉄道情景が見られたこと、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。