tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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手軽で便利! 宮崎哲弥著『新書365冊』

2006年10月23日 | ブック・レビュー
10月16日、朝日新聞社から「朝日新書」が創刊された。

第1弾・12冊の執筆陣は、売れっ子・齋藤孝、朝生(あさなま)文化人の代表格・宮崎哲弥と姜尚中(カン・サンジュン)、同新聞の看板・星浩に外岡秀俊 等々という豪華顔ぶれだ。
※朝日新書の紹介サイト
http://opendoors.asahi.com/original/shoseki/shinsho/soukan/

この中で私が選んだのは、宮崎哲弥の『新書365冊』だ。通常の新書2冊分の厚さで、定価は800円(税抜)。この本のもとになったのは02年~06年、雑誌『諸君!』に連載された書評(解体「新書」、「今月の新書」完全読破)で、とりわけ「完全読破」連載時には、毎月60~100冊の新書(新刊)を読んでいたというから、スゴい読書量である。

この本では、新書を「Best」「Better」「More」(要注目)「Worst」の4ランクに分けてコメントつきで掲載しているので、新書探しの際にはとても便利だ。読みながら「買おうかなぁ」という本をメモったところ(「ワースト」は除外)、ちょうど全体の1割・36冊のリストができた。BOOK・OFFの各店を回る折に持参することにしている。

同書で紹介された新書には、私が読んだ本も何冊か混じっていたので、宮崎氏との視点の違いが分かって興味深い。長くなって恐縮だが、うち6冊をピックアップしてみる。

【Best】
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』山田真哉著(光文社新書)

宮崎評:「会計学の啓蒙書としては型破りだ」「会計は法律とともに新しい教養層の『必修科目』である。まずはまずはこの優れた門前書(入門の入門)から」

私見:この本を読んで会計のことが少しでも分かるのか、疑問だ。私は学生時代(経済学部)に必修だった「会計学」を学んだので、語る資格はないのかも知れないが。
宮崎氏は『新書365冊』の最終章で「これだけ読んでも会計学の体系的な理解はさっぱり得られない。私なんかには不満が残るけど、いまのニーズにはぴったり合っているんですね」とい書いているが、これなら分かる。私の評では、せいぜい「More」。

【Best】
『自由とは何か』佐伯啓思著(講談社現代新書)

宮崎評:「佐伯は、現代のリベラリズムとは異なる考拠に支えられた自由の概念を提示する」「かかる構想が、果たして実効性を具備できるか、米英の卓越主義的なコミュニタリアニズムと同様、現実の壁に逢着(ほうちゃく)するのではないか、という疑義は抑え難いが、味読に値する書であることに疑問の余地はない」

私見:とても難解な本だ(上記の宮崎評も難しい)。私は、佐伯氏の著作は何冊も読んでいる。佐伯氏は奈良県出身で京都に住まれていて、同氏を講師とする勉強会(会社の同僚が主催し、年に4回程度開催)に出ているからだ。
PHP新書の『人間は進歩してきたのか』『20世紀とは何だったのか』も同じくらい難解だった。しかし新書ではないが『成長経済の終焉』(ダイヤモンド社)や『総理の資質とは何か』(小学館文庫)は具体的でよく分かる。
抽象的思考にたけ、近代西洋思想に明るい人にはおススメだ。私の評では「More」。先生、ごめんなさい。

【More】
『バカの壁』養老孟司著(新潮新書)

宮崎評:「重要な問題提起もあるのだが無責任な放言も多い。口述筆記のせいか散漫で非論理的」

私見:宮崎氏が指摘するようなキズはあるが、目からウロコの話が多く、とてもタメになる。読後、養老氏の他の著作はもとより、ローヤー木村著『リコウの壁とバカの壁』(本の雑誌社)という怪しい本まで読んだ。
養老氏が提起する「身体性の喪失」「脳化社会」という指摘は鋭い。私は「Better」。

【More】
『「食べもの神話」の落とし穴』高橋久仁子著(講談社ブルーバックス)

宮崎評:「本書は栄養学の見地から、近年のファド(流行)を一つ一つ検証し、冷製に判定を下す。澱みに浮かぶ泡沫のような健康情報に流されたくない人のために」

私見:宮崎評のとおり。著者は農学博士で群馬大学教授。テレビなどによる誤解だらけの食情報を丁寧に検証している。専門家による厳密な記述であるのに、一般読者にも、とても分かりやすく書かれている。
前著『「食べもの情報」ウソ・ホント』も良い。私は「Best」に挙げる。

【Worst】
『東大教師が新入生にすすめる本』文藝春秋編(文春新書)

宮崎評:「大方の東大教員が『新入生のために』選んだ本の、現実離れした『高尚さ』に辟易(へきえき)する。これは、学生の能力やニーズをまったく顧慮しない、自己満悦のリストに他ならない」

私見:そうは思わない。180人の東大教員がリストアップしたのは約1500冊。マックス・ヴェーバーや丸山眞男などの定番をはじめ、『阿房列車』『官僚たちの夏』『ショージ君の青春記』など、硬軟とりまぜた良書が全400ページにぎっしり詰まっている。
かつて大学生協で無料配布していた「読書のいずみ」に載っていた現実離れした晦渋(かいじゅう)本を買い込み、途方に暮れていた学生時代に、こんなガイド本があれば有り難かったのだが。私は「Better」。

【Worst】
『世界が認めた和食の知恵…マクロビオティック物語』持田鋼一郎著(新潮新書)

宮崎評:「マクロビオティックは科学的な食餌療法ではない。易学を応用した『無双原理』という独自の世界観に基づく、事実上の宗教だ。近年のニューエイジ・ムーヴメントに乗じて欧米に広がった」

私見:確かに、そういう側面は否定しない。しかしジャンクフードやコンビニ食全盛の現代において、マクロビの提唱する玄米中心の自然食が新鮮な視点を提供していることもまた事実。日頃の暴飲暴食に対する自戒として、私の評価は「More」。

何はともあれ、『新書365冊』は手軽で便利な新書ガイド本なので、買って損はない。

※写真はウィンターコスモス。10/21、おふさ観音(橿原市)で撮影。
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